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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.59「勇気を込めたPK」

 

 

 今月はフィンランドリーグ開幕戦を見るため、ヘルシンキへ行ってきた。サッカー取材だ。元Jリーガーの田中亜土夢選手が「HJKヘルシンキ」の10番を背負っている。「HJKヘルシンキ」は国民的スター選手、ヤリ・リトマネンがかつて所属したクラブだ。北欧のサッカー事情に初めて接したので興味津々だった。そもそも秋春制が主流の欧州サッカーのなかにあって、(冬が寒すぎるから)日本と同じ春秋制シーズンを採用していること自体、田中亜土夢をきっかけに知った。

 

 で、帰国後、猛烈にもっとサッカーの現場へ行きたくなった。当コラムは横浜にまつわる様々なスポーツ人、チームを取り上げているが、サッカーに関しては主にJリーグだ。ヘルシンキがそうだったように、初めて行く現場がいいなぁと大会情報を探った。総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントの神奈川県予選が目に飛び込んできた。総理大臣杯は大学サッカーのオープントーナメントだ。僕のイメージは「夏の総理大臣杯、冬のインカレ」だったが、考えてみれば全国規模のオープントーナメントなのだ。夏に決勝戦をやる以上、当然、春から予選が行われている。

 

 日程&カードを確認したら4月1日に1回戦「横浜市大vs横浜国大」が行われていた。ダービー感がある。スコアも2対1のクロスゲームだ。次は勝ち上った横浜市大が強豪・産業能率大に挑戦する準決勝だ。会場は伊勢原駅からバスでアクセスするという「産業能率大学第ニグラウンド」。もちろん僕は初めて行く現場だ。産業能率大は湘南ベルマーレのスポンサーを長く務めていて、目になじみがあったのだが、不勉強にも伊勢原にキャンパスがあるのは知らなかった。

 

 土曜日の朝、伊勢原駅北口4番バスのりば、伊10系統「大山ケーブル行き」の列に並ぶ。春の行楽シーズンだ。江戸落語の演目にもなっている「大山詣り」だ。中高年のグループ客で大にぎわい。この列のなかに総理大臣杯を見に行く人はいるかなぁとちょっと不安になる。初めて行く会場は大概、大学の体育会っぽいブレザーの若者とか、あるいはレプリカユニのサポーターとか、それらしい人を見つけてついて行くことにしている。まぁ、スマホの地図アプリがあるから自力でもたどり着けるとは思うけど。バスは春風にのって伊勢原市街を走り始める。やがて郊外の景色になり、下車バス停の「石倉」はちょっと山里の風情があった。

 

 産業能率大のキャンパスまでてくてく歩いたら、ちょうど黄色い練習着の一団がどこかへ向かおうとしているところだった。サッカーボールを持ってる人がいたので、サッカー部員だなと当たりをつける。練習着に「74」とか「95」と重い背番号が付いているから、出場選手じゃなく、これから応援に行く下級生なのだろう。産業能率大は強豪とあって部員数も多いのだなと思う。第ニグラウンドはキャンパスからけっこう離れたところにあり、僕はサッカー部について行って助かった。途中、新東名の工事現場の荒涼としたところを抜けていく。

 

 第二グラウンドはクラブハウス付の立派なものだった。人工芝だ。ベンチ式のスタンドが3列(しかも屋根あり)設置されている。先ほどの黄色い練習着の部員らは奥の一角(産能大応援席?)に陣取り、手前の閑散としたほうがどうやら横浜市大側のようだった。こちらは選手のご両親やOBらしき人影が総勢で7、8人くらい。もちろん勝手はわからないながら当コラム取材班は横浜市大の応援にまわる。HPの予習では青のユニホームだったが、今日は上が白、下が緑のセカンドユニホーム(産能大が青を着た)。試合前練習を見た感じ、だいぶ体格に差がある。

 

 公式HPのチーム紹介によると「横浜市大体育会サッカー部」は神奈川県1部リーグに所属し、「関東リーグ進出を目標とし、日々切磋琢磨して」いるクラブだ。部員は「現在15人」(4年生7人、3年生8人、マネージャー2人)とのことだが、当日もらったメンバー表に1、2年生が記載されてるから多少は増えてるかもしれない。特徴的なのは監督、コーチ、トレーナーがいないことだ。紹介文では「逆にそれを強みとし、キャプテン・副キャプテンを中心に自分達の理想のサッカーを追及し、実践することができます」と胸を張る。自主性を重んじる気風か。体育会サッカー部としては大変珍しいと思う。

 

 しかし、かたや体格も良く部員数も多くかつ立派な監督さんが率いる産能大だ。応援の部員たちがガンバ大阪のチャントを模して「戦士たちよ」(♪戦士たちよ俺らの声が聞こえるだろう~)を歌いはじめる。続いて東京ヴェルディの「カモン ヴェルディ」を「♪カーモン産能」に替えて。めっちゃ本格的だ。かたや横浜市大側はシーンと静かだ。

 

 試合が始まってやっぱり押し込まれる。産能大はサイドチェンジを交える等、ピッチを広く使った、骨格のしっかりしたサッカー。横浜市大はプレスに行くが、奪うまではいかない。だんだんクリアの連続になってくる。蹴り出せばいいが、セカンドボールを拾われると波状攻撃が来る。事実上のハーフコートゲームになってきた。

 

 だけど水際で防いでいたのだ。前半16分、ついに先制を許す。そこから続けざまに失点が続いた。僕の横にOBらしき人がいて、しきりに声をかけている。落ち着かせたい。敵の9番吉田伊吹選手に身体を当てていきたい。僕も見ていて選手らのメンタルを上げたいと思った。そりゃ実力も選手層も差があるだろう。だけど、サッカーはハートだ。試合中に凹んでしまっていいことなんか何もない。それじゃ力が出せない。

 

 が、気持ちは折れてなかったのだ。終了間際、右サイドから反撃に出た。エリア内で倒された。PK判定だ。キッカーは23番、阿部幹正主将。左足でていねいにインサイドキックを放つ。見事決まった。スタンド席、横浜市大側は拍手喝采だ。「ワンサイドの試合で1点返しただけ」ではあるのかもしれない。だけど、勇気の1点だ。嬉しかった。

 

 後半は見違えるような展開になった。いや、スコア上は2点追加され、6対1で敗れることになるのだが、見た感じは互角に近い。たぶん大量リードで産能大が気分的に緩んだのと、横浜市大が攻められるうちにリズムがつかめたのと両方あるんじゃないか。しっかり対応できていた。横でOB氏が「(阿部)幹正ナイス!幹正ナイス!」「次、次もらう準備!」「いやー、ナイス(中村)昇詩!」「樋口(雄希)ナイスカバー!樋口サンキュー!」と声をかけつづける。

 

 試合には負けた。が、いいサッカー部だ。スコア以上に頑張ったと思う。クラブハウス裏手の桜の花びらが風にのって飛んでくる。見に来てよかった。応援してるぞ、横浜市大サッカー部。ハマスポの取材がなかったら彼らの青春に出会うことがなかった。

 

 

 

 

 

 

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

※タイトル・本文に記載の人名・団体名は、掲載当時のものであり、閲覧時と異なる場合があります。

 
 
                           
 
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