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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.39「駅近の有吉さん」

 

 今回の取材は史上空前に「駅近」だった。ライター生活30何年、ここまでアクセスのいい現場は初めてじゃないだろうか。何しろ相鉄ジョイナスだ。横浜駅の駅ビルだ。ぜんぜん知らなかったが、その屋上に彫刻庭園とフットサル場が所在する。もちろん目指すは「クーバー・フットボールパーク 横浜ジョイナス」だ。

 

 受付は9Fフロアと聞いていたけれど、(アポの時間より早く着いたので)いったん屋上へ出て歩いてみることにした。すんごい広い。屋上スペースの全体面積は氷川丸より広大だそうだ。上の階はレストランフロアしか知らなかったなぁ。彫刻庭園はちょっとした散策ができる奥行きだ。フットサルコートは3面あった。これなら10チーム規模のカップ戦が立派に開催できる。で、当たり前だけど屋上からの眺めが横浜駅前そのものなんで不思議な感覚に陥る。こんな場所があったのか。

 

 感心しきりで9Fの「クーバー・フットボールパーク」受付を訪ねる。そしたら劇的な出来事がそこに待っていた。なでしこジャパン、有吉佐織選手。ついこないだFIFA女子ワールドカップ2015でカナダのピッチに立っていたサイドバックだ。6戦に先発フル出場し、オランダ戦では先制ゴールを決め、イングランド戦ではマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。大会最優秀選手に与えられる「ゴールデンボール賞」候補者8人に宮間あや選手とともにノミネートされた、なでしこ今大会最大の収穫! その有吉さんがオフィスからフツーに出てきた。

 

20150813有吉佐織選手 (67)

 

 それもそのはずだ。有吉さんはここ「クーバー・フットボールパーク」で働いているのだった。僕も大会後、TVのニュース番組で見て、うわ、フットサル場の受付に有吉さんがいるとびっくりした。同じサッカー日本代表でも男子と女子では待遇や環境に大きな差があって、(以前と比べて良くなったとはいえ)プロ契約の選手は稀だ。有吉さんはなでしこリーグ、日テレ・ベレーザに所属する選手であるけれど、普段はここ、ジョイナスの上で働いてらっしゃる。

 

 だから、この取材は「横浜で働く横浜市在住のアスリート」を取材する企画なのだ。ちなみに彼女は日体大出身なので、横浜市民歴もホントに長い。いやぁ、だけどいちばんインパクトあるの「ジョイナスの上」ってとこですよ。みんな知ってる駅ビルの一角に「ワールドカップの国際映像」で見ていた人がいる。で、もう何かキラキラしてるんだ。有吉さんって顔がいいでしょ。美人だけど、ただ美人なんじゃない。ひとすじに思う顔。意思のある顔。

 

 まず、率直にワールドカップの感想からうかがおう。今大会の有吉さんは「ブレーク」という言葉そのものみたいな感じがした。大ブレークの「ブレーク」。ブレークスルーの「ブレーク」。立ちふさがった壁をぶち壊して、躍動する感じ。何か壁みたいなものがあったんですか?

 

 「去年、代表に呼ばれてからなかなか自分が思っているようなプレーをできなかったりとか、普段やってるようなプレーもなでしこに入ったらできなかったりということもありました。それを少しずつ経験のなかで変えていこうともがいてきた結果、ワールドカップでは自分の思い描くようなプレーができた部分もありました。まさかワールドカップの舞台で楽しくプレーをすることができるなんて想像もしていませんでした。悔しい思いをしながらでも前へ進んできてよかったなって思いますね」

 

 あぁ、僕の見ていた「水を得た魚」みたいな有吉さんは、本当に水を得た喜びを全身で感じてるような姿だったんだ。なでしこで自分が出せない。それが立ちふさがった壁だった。

 

 有吉さんは2011年ドイツ大会のなでしこ優勝を、所属する日テレ・ベレーザの仲間とテレビ観戦している。「単純にすごいな」と思ったそうだ。もちろん日本の女子サッカーの達成に感動した。が、自分もあの場所に立ちたいとはまだ思えなかった。どこか遠くの出来事のようでもあった。

 

 有吉さんがぶつかった壁。それはとりも直さず、現在のなでしこジャパンが抱える問題だと思う。「ワールドカップ優勝」はすべてを変えた。女子サッカーはステータスを上げ、一躍メディアや広告代理店に注目される存在になった。一方で選手の世代交代は難しくなった。周囲の期待度が大きすぎて、新しく入る選手にはハンパない重圧となる。有吉さんをはじめとする「ポスト・ドイツ大会組」はその重圧と戦う必然が生じる。

 

 「準備していなかったミスは何も残らないけど、考えていた選択肢があるなかで、敢えてチャレンジした失敗は引き出しになります」

 

 今回、取材していちばん胸に残ったのがこの言葉だった。確かやりとりとしては「ミスをするとへこみますか? ミスを覚えておくタイプですか、切り替えて忘れますか?」というようなことをうかがったのだ。僕はこの言葉が有吉さんの本質だと思った。チャレンジする魂。努力家。準備して削ぎ落していく思考のプロセス。有吉さんの「ブレーク」はなでしこの希望だと思う。しっかり取り組めばできる。彼女自身が証拠だ。

 

 「決勝で負けて、そんなにうまくいかないよねって思いました。私自身も世界のレベルを肌で感じられてよかったなって思います。あの舞台でこてんぱんにやられて悔しい思いをしたのは、きっと今後の自分にプラスになると思います」

 僕らは横浜の「駅近」のフットサル場に有吉さんがいて、横浜市民でもあることを大いに誇りにしていいだろう。僕は今後の人生で、ジョイナスを通過して横浜市営地下鉄に乗るようなとき、100パー上を見るだろうなと思う。彼女のビッグチャレンジがほんのちょっと身近に感じられるじゃないか。

 

20150813有吉佐織選手 (27) 20150813有吉佐織選手 (22)

 

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※今回の有吉佐織選手とえのきどいちろう氏の対談は、9月20日(日)発行の横浜スポーツ情報誌「SPORTSよこはま」Vol.51内「夢を信じて」でご覧いただけます。

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

※タイトル・本文に記載の人名・団体名は、掲載当時のものであり、閲覧時と異なる場合があります。

 
 
                           
 
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