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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.36「ヤング侍MAX練習場」

 

 横浜というコミュニティが抱え持つ野球熱について書きたいと思ったのだ。それもなるべくならすそ野の部分、育成年代が取材したかった。調べているうち「横浜ヤング侍」というクラブチームが目に止まる。語感に惹かれた。僕は物書きだから何事も語感から入るタイプだ。一種、「マドロス追分」的とでもいうのか、「外来語+(日本すぎる)日本語」という立体構造に興味津々である。

 

 「ヤング」で「侍」なのだ。「侍」は帰化ラグビー選手の「侍バツベイ」(トンガ王国出身。大東文化大を経て社会人ラグビー入り。元日本代表)というケースもあるが、ジャンルとしては野球と最も相性がいいのじゃないか。何しろベースボールクラシックに出場する日本代表チームが「侍ジャパン」だ。これはたぶんグローバル時代にあって「世界に通用する日本」=国際競争力といったものを暗示していると思う。「NINJA」や「SUSHI」のように英語でもあるような「SAMURAI」だ。では、「ヤング侍」はどうかというとあんまり国際競争力という感じはしない。もっと率直な印象である。伝わってくるのは、こう、「やるぞー!」みたいな意欲だ。がんばるぞー! 「侍」として天下に立つぞー!

 

 調べてみると松坂大輔(福岡ソフトバンクホークス)が発端なのだった。まず大前提として、松坂世代の甲子園経験者等で結成された野球クラブ「横浜サムライ」が存在するのだった。神宮正和、松坂恭平、古木克明、田中一徳、上地雄輔…。「横浜サムライ」はメディアにも取り上げられ、単なる親睦会的な枠組みを超える広がりと意味を持った。そして、我が「横浜ヤング侍」こそはその弟チームなのだ。「ヤング」は「兄よりヤングである(英語的にはヤンガー・ブラザー)」というニュアンスに加え、ヤングリーグ所属クラブという意味を持たせてある。中学生年代で硬球を扱うシニアリーグ、ボーイズリーグに続く第3のリーグだ。

 

 アポイントを取って小田急線の相武台前駅に降り立つ。そこからクルマで10分足らず、「横浜ヤング侍専用相模原侍MAX練習場」を探し当てる。探し当てるという言い方をしたのは、想像と違っていたからだ。まぁ、やっぱり野球グラウンドを想像するじゃないですか? そうしたらグラウンドが見当たらず、市民農園とか自動車スクラップ置き場みたいなガラーンとした場所に看板が出ていた。クルマを降りて、おお、なるほどと思う。本当に「練習場」なのだ。敷地内にネットが張りめぐらしてあり、ティーやトスバッティング、捕球動作の反復なんかができるようになっている。グラウンドを使った全体練習は週末、集中的にやるらしい。平日はこの「練習場」でベース部分を鍛える。

 

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 総監督の藤澤昌央さんにお話をうかがった。いただいた名刺によると藤澤さんの横浜市瀬谷区のご自宅がクラブ事務局を兼ねている。藤澤さんはご子息も「横浜ヤング侍」のOBだ。それから1時間後、僕はとにかく藤澤さんの並々ならぬ情熱に圧倒されることになる。

 

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 「グラウンドのないチームなんで、あちこちお借りしながらできることをやってます。初代の監督は今、宇都宮のほうへ行っちゃってますけど泉正義(02~05年、ヤクルトスワローズ投手)が務めて、その後、古木克明(99年~09年、横浜ベイスターズ、オリックスバファローズ外野手、内野手)に代わりました。現在は古木が監督で、私が総監督という位置づけです」

 

 クラブは発足して6年め。現在は30名の選手を抱えている。地域密着の方針で、自宅から通っている子ばかりだという。ほとんどが近所だが、なかには横須賀から通ってる子もいる。OBには例えば今年のセンバツに出場した二松学舎付の1年生エース、大江竜聖君がいるけれど、決して野球エリート養成が目的ではない。むしろ主眼は人間教育にあるという。

 

 「中学生年代は難しいです。1年生はまだ小学生の幼さがそのまま残っています。で、2年生くらいから大人の顔色をうかがうようになったり、思春期、反抗期の心の葛藤が始まります。子供が野球をやってる上でいちばん感謝をされないような年代、の指導なんですけど(笑)。いいものはいい、悪いものは悪いとスジを通すようにしています。感謝されないといっても、ここの部分がしっかりしてないと子供が高校、大学、社会人と野球を続けていくことができないんです」

 

 いちばん感謝をされないような年代。自分の中学時代を思い出してつい笑ってしまった。藤澤さんはだからこそ手を抜かない。身体を張って子供たちに向き合うことにしている。それはつまり、ものすごい負荷である。一日の練習が終わるとくたくただ。身体の芯から疲れている。

 

 「汚い話で恐縮ですけど、練習終わって夜遅く自宅へ帰ってビールを一杯飲んだら、もう疲れて風呂入る気力がないんです(笑)。夏場、汗かいて泥々になってて、ホントはさっぱりしたいのにそのまま倒れるようして眠っちゃう。体力だけじゃなく、神経も疲れますね。子供はみんな違うんで、よく見てやらないと」

 

 高校、大学に進んだOBから「当時はわからなかったけど、ここがいちばん温かかった」と連絡をもらうそうだ。実際、OBが戻ってきて、ボランティアで練習の手伝いをしている。藤澤さんは野球をずっと続けるためのパスポートとして、礼儀作法や克己心を説いている。野球のスキルより、逆境に負けない心のほうが一生ものだと考えている。

 

 「練習もとことんやりますけど、挨拶や会話です。コミュニケーションを重んじます。合宿ではノートに課題を書かせています。あぁ、うちはここで合宿するんですよ。ここは水道がないから、ご父兄に水を持ってきてもらうんです。風呂も炊き出しもここでします」

 「子供が壁を乗り越えると、教えている私も一緒に乗り越えるんです。もちろんそれは本当に感動します。そのためにやっているようなものですね」

 

 「侍MAX練習場」に水道が来ていない話は仰天した。それでフツーにやれちゃっているのがすごい。やれちゃってる理由は一にも二にも藤澤さんの情熱ゆえじゃないか。僕はどう見ても藤澤さんご自身が「侍」だと思ったのだ。「侍」と「ヤング侍」の健闘を祈りたい。

 

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えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

※タイトル・本文に記載の人名・団体名は、掲載当時のものであり、閲覧時と異なる場合があります。

 
 
                           
 
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