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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.34「グレートスタート!」

 

 新高島駅を地上に出たらものすごい人だった。ていうか正確には駅の階段をゼッケンをつけたマラソン参加者がタッタッタッと駆け上っていく。僕はプレスIDを首から下げて長いエスカレーターを上った。3月の冷気が降りてきて、眠気がどこかへすっ飛ぶ。地上に出た途端、道路に2万5千人が並んでいた。色とりどりのランニングウェア、あるいは衣装、扮装。僕は度肝を抜かれた。ふい打ちの2万5千人。

 

 いや、ちゃんと考えれば予想はついたことかもしれない。横浜マラソン2015。過去33回、長くてハーフまでだった大会が市民参加型のフルマラソンに生まれ変わる。もう鳴り物入りだ。NHKの週間天気予報(関東)でも「15日、日曜日は横浜でマラソンがあります。横浜の天気ですが…」とわざわざ取り上げていた。参加者は東京マラソン2015(3万5千人)には及ばないものの2万5千人だ。そんなスタジアム級の人数が公道に並び、スタートの号砲を待っている。ちゃんと考えれば度肝を抜かれることはなかったんだと思う。が、僕は抜かれた。すっげぇ~。

 

 すっげぇ~、ずーっと向こうのほうまで嘘みたいに列が伸びている~。途中でカーブしてて最後尾がどこだか見えない。このランナーが全員走るんだ。2kmの車いす。10kmの車いす&ラン、そして42.195kmのフルマラソン。コースはみなとみらい地区をスタートして、横浜三塔、ハマスタ、中華街玄武門、山下公園を通り、本牧、根岸をめぐって、南部市場を折り返し、そこから何と首都高速湾岸線に上がる。マラソンコースが高速道路をこれだけ長い距離上がるのは日本初のことで、これで従来タイムが出ることを指した「高速コース」という言葉にもうひとつ別の意味が加わってしまう可能性もある(?)。

 

 首都高湾岸線のコースは全長およそ11キロ、ここからフィニッシュ地点のパシフィコ横浜までは、潮風を感じながら海へ向かって走るイメージということだ。もちろん応募者殺到で、今、ここに並ぶ2万5千人は抽選に当たった幸運なランナーなのだ。まぁ、当然、取材する以上、そのくらいの予備知識は頭に入っていた。だけど、実際に目の当たりにすると2万5千人は大迫力だ。ビッグイベントだ。ステージで林文子・横浜市長、黒岩祐司・神奈川県知事、山口宏・横浜市体育協会会長、そして大会アンバサダーの谷原章介さん、剛力彩芽さん、米田功さんのスタートセレモニーが始まる。

 

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 そこにあるのは「スタート前の緊張感」でもあるんだけど、もう一方で「カジュアルでリラックスした空気感」でもある。これはオリンピックや世界選手権の選考レースじゃない。市民が自分のために走るレースだ。昔読んだ村上龍の『ニューヨーク・シティ・マラソン』を思い出す。あの小説が出た頃、自分のためにスポーツする個人は少数派だった。日本のスポーツはまだ部活っぽい空気感のなかにあった。雑誌『Tarzan』(マガジンハウス)が出たとき、自分の愉しみや達成感のためにスポーツをとらえ直そうという編集方針を新鮮に感じた。あれからずいぶん時間が経って、横浜マラソン2015は100パー、個人のレースだ。個人の自己表現であり、チャレンジだ。

 

 スタートはこの人数だとざっくりしたものになる。先頭が号砲を聞いて走り出しても列全体はなかなか動かない。僕は2万5千人の個人を飽かず眺めた。ランニングウェアの人が多いけれど、仲間内や町会や職場のTシャツ、それから野球やサッカーのユニホームが混じる。といって会社とか組織を背負って走るわけじゃない。ユニホームを着てたとして、「俺、ベイスターズファンです」以上の何も表さない。壮観でしたよ、スタートしていく2万5千人を見送るのは。僕は30年前、村上龍を読んだ頃、こういう光景が見たかったんじゃないかと思った。

 

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 で、その後、電車に乗ってコースを先回りしたんだけど、同じ動き方をする人が大勢いることに気づいた。ランナーの家族とか友達とか、つまり応援の皆さん。大きな手製ののぼりや横断幕を用意したりしていて荷物が多いんだね。僕はすごい好感を持った。3月中旬とはいえ。わりと冷え込んだ曇りの日なんですよ。沿道に立って「がんばれ~!」ってやるのも楽じゃない。だけど、皆、けっこう楽しげなんだ。仲がいいんだなぁ。身内のチャレンジを後押ししている。と、以前、仕事してた雑誌の担当編集者、Sさんとばったり遭遇した。Sさんはマラソン仲間の応援に来た(彼自身は抽選で外れた)由。

 

 で、沿道の応援について考えた。もちろん家族や友達も応援するんだよ。だけど、ランナーは知らない人からも応援してもらえる。必ず拍手が起きるし、「がんばれ~!」の声が飛ぶ。これは元気が出るんですね。後で聞いた話だけど、Sさんの仲間で今回完走された方が「首都高は応援がないからつらかった」と言ってたらしい。そりゃそうだ、高速道路は「沿道」がないもんなぁ。

 

 ちなみに応援する人の便宜のために、大会当日と前日2日間有効の「横浜マラソン2015応援きっぷ」が発売されている。これは1000円で市営地下鉄、バスの指定エリア、及びみなとみらい線を何度でも自由に乗り降りできるきっぷで、まさに先回ラー(=先回りする人)必携のきっぷだ。電車、バス利用の先回ラーは都市マラソンならではだと思う。

 

 それから「ラッキー給食」と「給水パフォーマンス」について触れておきたい。大会オーガナイズはランナーのために特別な趣向を用意した。まず「ラッキー給食」。これは一般的な給食にプラスして神奈川・横浜の食品ラインナップを揃えたのだ。「ありあけのハーバー」あり、「ミニ月餅」あり、「海賊コロッケ」や「湯河原みかん」あり。どこの給水所でいつ何が出されるか、それは当日までシークレットとされた。

 

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 あと「給水パフォーマンス」。これは映像で見たニューヨーク・シティ・マラソンの雰囲気に近い。キッズチアダンス、タップ、ゴスペル、和太鼓、ジャズ…。各給水所に「ランナーを元気づける」パフォーマーがセットされた。僕は第18給水所のチアダンスを見学して、ホントにいいなぁと思った。女子高校生のチアがいっしょうけんめい応援してくれるんだよ。

 

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 個人の愉しみや達成感は、色んな沿道の応援に支えられている。ここにはコミュニティーの理想形があると思った。フルマラソンになったこの大会は人気を集め、定着していくだろう。その最初を取材できたのは幸運だったな。

 

 

 

附記 横浜マラソン2015は大会当日の計測で陸連公認を申請する予定だった(高速道路部分の距離計測がクルマを止めないとできなかった)ということなんですけど、結局、公認が取れなかった旨、発表されました。つまり、文中の「フルマラソン」という記述は正しくないことになります。こういうのは今後の課題ですね。例えば初めてサブ4(4時間切り)を達成した参加者がいたとして、その人のガッカリ感は大変だと思います。今年の運営上の反省を踏まえ、より良い大会になるのを希望します。

 

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えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
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Web
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「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

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