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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.60「雨の山下公園」

 

 横浜を舞台にした国際大会で、以前から気になっていた大会があった。ずっとどういうわけかスケジュール調整がつかず、取材できずにいた。ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会。今年で第8回を数えるビッグタイトルだ。2009年、横浜開港150周年記念事業としてスタート、いまやアジアで唯一、開催されるトライアスロンの「世界選手権」となった(ITUワールドカップ宮崎大会は別カテゴリーである)。

 

 トライアスロンを生で見るのは初めてのことだ。もちろんTVのオリンピック中継は見たことがあるが、実際に見るとどんな感じなのだろう。スイムとバイクとラン。TVならカメラのスイッチングでレース全体を追いかけられるが、沿道(もしくは沿岸)にいたら迫力は体感できるかわり肉眼では一部分しか見えない。横浜市体育協会の新しい担当編集者、S澤R子さん(以下、セリザーさん)にどこで見たらいいか相談した。答えはシンプルだった。

 
 
 「山下公園」

 

 いや、「今年の大会はバイクが赤レンガ倉庫を駆け抜けるのが売りです。倉庫付近の穴場観戦スポットは‥」みたいな感じかなぁと思うじゃないか。いちばんベタな答え「山下公園」が来た。開催日の5月13、14日、山下公園は大会ベニューが設営され、大変なにぎわいになる。まぁ何の予備知識もない状態でも、僕は山下公園へ行ってみた。

 

 が、よくよく考えてみて「山下公園最強!」と思い至る。セリザーさんごめん、君の言う通りだ。結局、いちばんベタな答えが正しい答えなのだ。何でかって言うと山下公園こそ「沿道」であり「沿岸」であり、大型モニターと観客席の設営された場所だ。トイレもある。売店ブースもある。万が一、体調を崩したとしてもボランティアさんに助けてもらえる。その上、交通アクセスがいい。中華街をはじめ、付近にグルメスポットにもこと欠かない。

 

 13日朝、僕は山下公園で人生初のトライアスロンレースの本物を見た。ちなみに13日はエリート競技日で、半日かけてエリート・パラトライアスロン競技とエリート女子、男子競技を行なった。14日はエイジグループ(一般参加)日だ。僕のお目当ては13日10時台スタートのエリート女子だった。リオ五輪7位のアンドレア・ヒューイット(ニュージーランド)をはじめ、有名選手が出場するだけじゃない。去年の本大会3位に輝き、彗星のようにスターダムに駆け上がった上田藍選手が見れる。

 

 ただセリザーさんと事前打ち合わせしたときと天候が違った。雨だ。スタート時は小雨だったものが、レースが進行するにつれ本降りになった。僕は天気予報を見て、折りたたみ傘とカッパ、リュックを入れる大きなビニール袋、寒くなったとき用の軽量ダウンベスト、それから替えのソックス等を準備していた。準備万端といっていい。さっそく会場でカッパを着た。まぁ、これはサッカー観戦で学んだ知恵だ。雨天の試合観戦はカッパが大原則。と思ったら会場は案外、傘をさしてるファンが多い(比率を言うとカッパ3に対し、傘7)。これは後ろに立つと視界がさえぎられてなーんも見えない。せめて透明のビニール傘じゃないかなぁと思う。

 

 つまり、この日はトライアスロン初心者が観戦するのにおよそ不向きな条件だったのだ。雨は降りしきる。傘で視界がふさがれる。そのうちに下半身が濡れてずくずくになってきた。身体が冷える。風邪ひきそうだ。13時台スタートのエリート男子は観戦を断念した。まぁ、カンタンに言うと2時間ほどの競技時間、山下公園特設スタンドでカッパ着てどしゃ降りに耐えていたと思ってほしい。

 

 で、そんな苦行のような初観戦であったが、これが大変面白かったのだ。僕だけじゃない。スタンドで雨に打たれ、女子エリートのレースを見つめたファンは皆、びしょ濡れになりながらも大興奮していた。ひとつには雨のレースの面白さだ。思いも寄らぬ展開が連続する。本命のオリンピック選手が実力を発揮できず、ダークホースが途中までレースを引っ張る。僕はバイクの映像にしびれた。カメラに水滴がついて、風景がぼやけるようなコンディションなのだ。スイムを終えた水着姿のアスリートたちは、とんでもない速度でコーナーに飛び込んでいく。恐怖感はないのだろうか。

 

 それがトライアスロンの凄みなのだと思う。疲れも恐怖感も人間の意思で克服可能であるらしい。いや、克服しようとチャレンジする行為がトライアスロンなのだ。僕は優勝したフローラ・ダフィ選手(バミューダ諸島)のたたずまいに惹きつけられた。肩幅ががっちりして、発しているものが半端ない。気持ちが強い。本当にカッコいいのだ。聞けばバイクを得意とする選手とのこと。雨の横浜は彼女のためのステージになった。

 

 日本勢では昨年3位の上田藍選手が雨に泣かされた。何と最終9周目、バイクで係員と接触して転倒、途中棄権してしまったのだ。山下公園の大型モニターでは詳細がわからず、ただ「上田藍棄権」とだけ速報が入った。どよめきが起きた。皆、上田選手の後半追い上げを期待していたのだ。

 

 最終競技のランを見ていて、面白いなぁと思う。トライアスロン選手の走りは陸上競技(たとえばマラソンや長距離走)の走りとぜんぜんフォームが違う。効率をいえば陸上の走りに軍配が上がるが、トライアスロンはエネルギーがある。こんなオリンピック級の大舞台がタダで見られるんだなぁ。やっぱりセリザーさんの言う通りだ。山下公園凄い。天気も来年は晴れてくれるんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

※タイトル・本文に記載の人名・団体名は、掲載当時のものであり、閲覧時と異なる場合があります。

 
 
                           
 
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