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    イベントレポート

一本の絆【後編】〜箱根駅伝へ臨む神大駅伝チーム・大後監督の思い

by :千葉 陽子

 第85回箱根駅伝本番が迫ってきた(2009年1月2、3日開催)。ハマの駅伝ファン注目の神奈川大学(以下神大)陸上競技部駅伝チームは、4年ぶりのシード権奪取に挑む。神大を率いるのは1989年にコーチに就任して以来、19年に渡りチームと共に歩んできた大後栄治監督。1997、1998年には全日本大学駅伝、箱根駅伝でチームを連覇に導いた。

 「ここ数年で、一番手応えがいい」。選手たちへ厚い信頼を寄せる大後監督に、運命の2日間に臨む直前の心境を語ってもらった。

駅伝チームの指揮官であると同時に、神大人間科学部教授の大後栄治監督

「僕は選手の伴走者」

 前回の箱根(第84回大会)は、選手を心身共に安定した準備をして送り出せない状態でした(結果は総合15位)。この一年間は2、3年生の若手育成を中心にじっくりと取り組んで、展望が開けるチームになってきたのは事実です。本戦出場を決めた予選会(10月18日)は6位通過でしたが、選手たちは満身創痍の中でよくまとめてくれました。

 まもなく本番を迎えますが、最終エントリーを選手に告げるのは毎年悩みます。理屈だけではダメだし、熱意だけでもダメです。緊張感の中、自分自身を常に平常心で客観的に見て、最後までやり通した人間がスタートラインに立つのです。最終的には選手自身が、調整の中で答えを出してくることが多いですね。

 たかが駅伝なのですが、選手はこの4年間に命を懸けています。そのレースで人生が変わる時もある。僕は選手にとって伴走者のような存在なので、自分の一言一言が大変重みを持つと感じています。

チーム一丸となって。共に箱根を戦う仲間と壮行会に臨む

「自らの信念を支えてきたことは何か、その部分に訴える」

 12月に入ると取材や壮行会などで、本戦に向けて選手の気持ちに高ぶりが出てくるものです。僕たちスタッフはその気持ちを抑える役目でいいと思っています。アドレナリンが早めに出ないようにすることが大事ですね。

 本戦では運営管理車から選手を見守り、誰よりも最後に声を掛けてやれる。これは特権ですね。レースの前半は、選手の気持ちが乗るように声を掛ける。そして後半は心情に訴えること…彼らが4年間これだけ陸上に懸けることができたのは、何かしらの信念があるからです。自らの信念を支えてきたことは何か。その部分に訴えかければ、多少のキツイことも頑張るものです。

 シード権獲得の期待が懸かりますが、そのために必要なことは、区間10位の位置をキープする。区間の真ん中で走るためには、安定感が求められます。同時に守りに入らず、挑戦する気持ちが大切です。自分たちの発表の場なのだという気持ちで、スタートラインに立てるかどうかに懸かってきますね。


 

箱根駅伝へ臨む思いを色紙にしたためる。選んだ言葉は、「全体は個の総和以上のものである」

「彼らは人生を懸けているのだから、僕も命懸けでやらなければならない」

 エースと呼ばれる森本(卓司選手)は利かん坊みたいな感じで、魅力がありますね。神大で花を咲かせたいと言う、あいつの強い気持ちを果たしてあげたい。選手たちは人生を懸けている。僕たちも命懸けでやらなければなりません。

 僕にとって箱根駅伝は人生そのもの。選手たちには、一生に一度しかない大学生活の中で、4年間を懸けるだけの価値ある大会だと、いつも話しています。たとえ勝てなかったとしても、です。

 駅伝に限らず、スポーツとは人生そのものだと思うのです。どんなに努力しても、返ってくる答えは勝つか負けるか。社会も同じで、それでも覚悟して立ち上がっていくしかない。それをスポーツの世界は教えてくれます。特に箱根駅伝は、ひとつの時間の中で1番から最下位まで如実に勝敗の結果を映し出します。それが観てくださる方にダイレクトに伝わり、感動を与えるのでしょう。

 これからも選手と接して、自分自身が学んでいきたい。その時間をできるだけ長く持てればいいですね。先のことを考えずに、一年一年充実した積み重ねがあればいいと思うのです。僕にとって、今日がすべて。今日の彼らとのコミュニケーションがすべてなのです。


 

壮行会で。チームを支える(左から)三谷駅伝主将、松永トレーナー、市川コーチ、大後監督〔左〕 チームのエース・森本選手のテーマは「爆走」!〔右〕

 時に冷静に、時に熱く選手と向き合う大後監督。12月16日、大後監督は共に戦う選手、コーチ陣と共に大学で開かれた壮行会に参加した。チームを激励に訪れた大学関係者や地元ファンの前で、駅伝主将の三谷泰之選手は、「メンバー全員がそれぞれの責任を果たし、チームの目標であるシード権獲得に向けて、臆することなく慎重かつ大胆な走りで臨んでいきたい」と堂々と宣言した。

   

 応援指導部による応援歌「箱根の山」、校歌斉唱のエールが披露され、徐々に本番に向けて緊張感が高まってきた。応援指導部の岡安拓也さんは、「選手たちにはシード権を狙って頑張ってもらいたい。自分たちも選手と同じ気持ちで、本番の応援一つ一つに全力を尽くします」と闘志をみなぎらせていた。


 

シード権奪取に向けて、熱いエールを送る!


 

闘志みなぎる応援指導部のメンバー〔左〕 大後監督(左)が神大・中島三千男学長(右)に健闘を誓う!〔右〕

 来る2009年は横浜開港150周年の記念すべき年。そのスタートラインに立つのは、神大駅伝チームだ。一本のプラウドブルーの襷は、チーム全員の思いが詰まった絆の象徴。襷がつながりますように。そして選手たちが走り続けてきた軌跡が、シード権獲得という形になって実ることを新春の朝陽に祈る。

関連記事:一本の絆【前編】〜神大駅伝チームが箱根駅伝シード権奪取に挑む!

箱根駅伝速報は、ジンダイエキデンサイトへ http://ekiden.kanagawa-u.ac.jp

取材協力・神奈川大学

※写真の転載は固くお断りします