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SPORTSよこはま 2009 DECEMBER Vol.16

スポーツ医科学センター ひざ痛・腰痛の予防と改善

横浜市スポーツ医科学センター 事業連携担当部長●藤牧 利昭(医学博士)

 今日では、健康の維持・増進に、適度な運動・スポーツが必要であるということに違和感を持つ方は少ないと思います。1990年代初めに「活性酸素」が話題となり、「運動が活性酸素を発生させる」ことなどを根拠として「スポーツは体に悪い」という本が話題になったこともありますが、ほどなく、話題から消えました。
  今や、「健康のために運動が良い」ことは多くの人が認めています。しかしながら、運動・スポーツによる体力向上や健康改善が取り上げられるようになったのは、さして遠い昔の話ではありません。少なくとも19世紀までは、職業活動や日常生活の多くに身体を動かすことが含まれており、今日のような「運動不足」は考えにくかったのです。同時に、食事も全ての人が十分に栄養摂取できるわけでなく、「栄養過多」も起こりにくい状況でした。それが、産業革命による機械化に伴って、生産活動で身体を動かす量が減り、自動車の発達によって、移動での身体運動量も減少しました。生産性向上は、食糧事情にも変化をもたらし、栄養摂取過多が起こり得るようになりました。
  こうした近代化に伴って起こってくる問題点にいち早く警鐘を鳴らしたのが、ご存知チャップリンの「モダンタイムス」ですが、そこでの問題は、「歯車化」による人間疎外であって、「運動不足」は問題にされていないようです。
  その後、1960年にJ. F. ケネディが、大統領就任前に行った演説で、若者の軟弱さを放置しておくと、国全体の活力を衰退させるので、対策を急ぐべきだと述べたことが大きな反響を呼びました。クーパー博士の推奨する有酸素運動=エアロビクスが、心臓病の予防にも有効であることが認められ、有酸素運動の代表であるジョギングが一大ブームとなりました。わが国でも、有酸素運動による呼吸循環系機能の改善、体力(全身持久力)の向上に関する科学的な研究が盛んに行われました。
  その研究の先駆者であるP. O. オストランド博士は、運動の必要性を説明するために、次のように語っています。「現在のわれわれのカラダは、石器時代の生活に適合するように造られているのに、今日、工業化の進んだ社会に適合しなければならない。今日の赤ん坊も、先史時代のわれわれの先祖の子どもたちと同じからだのつくりを持って生まれてくる。(以下略)」
  人間に限らず、全ての動植物は、生活環境、生存条件に適合する身体の構造と機能を持っています。そして、普通に生活していれば、身体機能が正常に保たれるようになっています。しかしながら、人間は、特に産業革命以後の僅かな時間の間に、生活環境、生存条件を大きく変えてしまったのです。石器時代に適合しているわれわれの身体は、現代の生活条件には合わないのです。「だからこそ、われわれは、身体の正常な機能を維持するために、活発な身体活動を、生活の中に意識的に取り入れなければならないのである。」というのがオストランド博士の結論です。
  有酸素運動に取り組むのは、若い人が中心だったのですが、多くの研究により、さまざまな健康改善の効果も知られるようになったので、中年層から高年齢層にまで拡大しました。さらに、肥満や軽度の高血圧など健康にやや不安のある人も有酸素運動に取り組むようになり、安全性が重視され、「無理のない」「ウォーキング」などが推奨されるようになりました。
  さて、20世紀の終わり頃から、日本をはじめとする先進諸国では、高齢化社会から高齢社会へ移行するにつれ、高齢者の健康問題が重視されるようになると新たな問題が起こってきました。1960年代以降、体力向上と健康改善の中心であった有酸素運動は、筋力、柔軟性、持久力などのさまざまな体力要素の中で、全身持久力の向上に有効で、健康との関連で言えば、呼吸循環系機能の改善に有効でした。ところが、高齢者の健康を阻害する因子となる「転倒」は、全身持久性よりは、下肢の筋力やバランス能力との関連が深いことが明らかとなりました。全身的な虚弱化につながる筋肉量の低下、それをもたらす食欲の低下、たんぱく質摂取の低下の対策としては、筋肉量を維持することが重要であることが明らかとなるにつれ、有酸素運動だけでなく、筋力トレーニング、バランストレーニング、ストレッチングなども併行して行うことが重要であることが認識されるようになりました。
  これは、高齢者に限ったことではありません。有酸素運動には有酸素運動の効果があり、筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)には筋力トレーニングの効果があり、バランストレーニング、ストレッチングには、それぞれの効果があるということです。これらを偏りなく行うことが大事ですが、ひとりひとりの生活条件、体力の状況、健康状態によって、ある人は有酸素運動を重点に、ある人は筋力トレーニングを重点に、というように、重点の置き方を変えることが重要です。
運動しているイラスト  東北大学が行った調査では、運動習慣のある人は、運動習慣のない人に比べ医療費が3%低いというデータが出ています。一方、ある企業で、その方の体力・健康状態に合わせて運動を勧めたところ、医療費の削減効果は25%と見積もられる、という報告もあります。3%、25%が妥当であるかはさておき、ひとりひとりの体力状況、健康状態に合わせて運動を行えば、より効果的ということは間違いなさそうです。ところが、肥満気味で有酸素運動が望まれるのに、柔軟性を高める運動ばかりしていたり、身体が硬く膝痛などが心配されるのにストレッチングを行っていなかったり、など、体力状況、健康状態に合わない運動の選択、すなわち体力・健康と運動とのミスマッチの事例は少なくありません。
  単に、「高齢だから控えめに」というような強度の問題だけでなく、どんな運動を行うかを見極めて行うことが大事です。自分に合った運動を知るのに、専門的体力テストとメディカルチェックがセットになった横浜市スポーツ医科学センターのスポーツプログラムサービスを受けることが理想ですが、簡易な体力チェックでもある程度の見極めは可能です。

スポーツ医科学センター ひざ痛・腰痛の予防と改善

横浜市スポーツ医科学センター 事業連携担当部長●藤牧 利昭(医学博士)

 今日では、健康の維持・増進に、適度な運動・スポーツが必要であるということに違和感を持つ方は少ないと思います。1990年代初めに「活性酸素」が話題となり、「運動が活性酸素を発生させる」ことなどを根拠として「スポーツは体に悪い」という本が話題になったこともありますが、ほどなく、話題から消えました。
  今や、「健康のために運動が良い」ことは多くの人が認めています。しかしながら、運動・スポーツによる体力向上や健康改善が取り上げられるようになったのは、さして遠い昔の話ではありません。少なくとも19世紀までは、職業活動や日常生活の多くに身体を動かすことが含まれており、今日のような「運動不足」は考えにくかったのです。同時に、食事も全ての人が十分に栄養摂取できるわけでなく、「栄養過多」も起こりにくい状況でした。それが、産業革命による機械化に伴って、生産活動で身体を動かす量が減り、自動車の発達によって、移動での身体運動量も減少しました。生産性向上は、食糧事情にも変化をもたらし、栄養摂取過多が起こり得るようになりました。
  こうした近代化に伴って起こってくる問題点にいち早く警鐘を鳴らしたのが、ご存知チャップリンの「モダンタイムス」ですが、そこでの問題は、「歯車化」による人間疎外であって、「運動不足」は問題にされていないようです。
  その後、1960年にJ. F. ケネディが、大統領就任前に行った演説で、若者の軟弱さを放置しておくと、国全体の活力を衰退させるので、対策を急ぐべきだと述べたことが大きな反響を呼びました。クーパー博士の推奨する有酸素運動=エアロビクスが、心臓病の予防にも有効であることが認められ、有酸素運動の代表であるジョギングが一大ブームとなりました。わが国でも、有酸素運動による呼吸循環系機能の改善、体力(全身持久力)の向上に関する科学的な研究が盛んに行われました。
  その研究の先駆者であるP. O. オストランド博士は、運動の必要性を説明するために、次のように語っています。「現在のわれわれのカラダは、石器時代の生活に適合するように造られているのに、今日、工業化の進んだ社会に適合しなければならない。今日の赤ん坊も、先史時代のわれわれの先祖の子どもたちと同じからだのつくりを持って生まれてくる。(以下略)」
  人間に限らず、全ての動植物は、生活環境、生存条件に適合する身体の構造と機能を持っています。そして、普通に生活していれば、身体機能が正常に保たれるようになっています。しかしながら、人間は、特に産業革命以後の僅かな時間の間に、生活環境、生存条件を大きく変えてしまったのです。石器時代に適合しているわれわれの身体は、現代の生活条件には合わないのです。「だからこそ、われわれは、身体の正常な機能を維持するために、活発な身体活動を、生活の中に意識的に取り入れなければならないのである。」というのがオストランド博士の結論です。
  有酸素運動に取り組むのは、若い人が中心だったのですが、多くの研究により、さまざまな健康改善の効果も知られるようになったので、中年層から高年齢層にまで拡大しました。さらに、肥満や軽度の高血圧など健康にやや不安のある人も有酸素運動に取り組むようになり、安全性が重視され、「無理のない」「ウォーキング」などが推奨されるようになりました。
  さて、20世紀の終わり頃から、日本をはじめとする先進諸国では、高齢化社会から高齢社会へ移行するにつれ、高齢者の健康問題が重視されるようになると新たな問題が起こってきました。1960年代以降、体力向上と健康改善の中心であった有酸素運動は、筋力、柔軟性、持久力などのさまざまな体力要素の中で、全身持久力の向上に有効で、健康との関連で言えば、呼吸循環系機能の改善に有効でした。ところが、高齢者の健康を阻害する因子となる「転倒」は、全身持久性よりは、下肢の筋力やバランス能力との関連が深いことが明らかとなりました。全身的な虚弱化につながる筋肉量の低下、それをもたらす食欲の低下、たんぱく質摂取の低下の対策としては、筋肉量を維持することが重要であることが明らかとなるにつれ、有酸素運動だけでなく、筋力トレーニング、バランストレーニング、ストレッチングなども併行して行うことが重要であることが認識されるようになりました。
  これは、高齢者に限ったことではありません。有酸素運動には有酸素運動の効果があり、筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)には筋力トレーニングの効果があり、バランストレーニング、ストレッチングには、それぞれの効果があるということです。これらを偏りなく行うことが大事ですが、ひとりひとりの生活条件、体力の状況、健康状態によって、ある人は有酸素運動を重点に、ある人は筋力トレーニングを重点に、というように、重点の置き方を変えることが重要です。
運動しているイラスト  東北大学が行った調査では、運動習慣のある人は、運動習慣のない人に比べ医療費が3%低いというデータが出ています。一方、ある企業で、その方の体力・健康状態に合わせて運動を勧めたところ、医療費の削減効果は25%と見積もられる、という報告もあります。3%、25%が妥当であるかはさておき、ひとりひとりの体力状況、健康状態に合わせて運動を行えば、より効果的ということは間違いなさそうです。ところが、肥満気味で有酸素運動が望まれるのに、柔軟性を高める運動ばかりしていたり、身体が硬く膝痛などが心配されるのにストレッチングを行っていなかったり、など、体力状況、健康状態に合わない運動の選択、すなわち体力・健康と運動とのミスマッチの事例は少なくありません。
  単に、「高齢だから控えめに」というような強度の問題だけでなく、どんな運動を行うかを見極めて行うことが大事です。自分に合った運動を知るのに、専門的体力テストとメディカルチェックがセットになった横浜市スポーツ医科学センターのスポーツプログラムサービスを受けることが理想ですが、簡易な体力チェックでもある程度の見極めは可能です。