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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.62「世界リレー」

 

 

先月のコラムで、4月19日(日)100m走日本人初の9秒台出るか、とあおっておきながら結局9秒台は出ませんでした。すみません。やはり条件が揃わないとなかなか難しいです。今回は風があまりよくありませんでした。しかしXデーは近いと思います。

 

この4月19日(日)に広島で開催された織田記念陸上では残念ながら9秒台は出ませんでしたが、この大会は5月2日(土)から3日(日)にバハマ・ナッソーで開催されるワールドリレーズという大会の日本代表選考会にもなっていました。ワールドリレーズは昨年が第1回大会で、今回が2回目となる国際陸上競技連盟が主催する世界大会です。

 

この大会の上位8か国には、次年度の世界大会のリレーの出場枠が与えられます。昨年は4×100mリレーで日本チームが見事5位に入賞し、今年8月に北京で開催される世界陸上への出場権を獲得しています。

 

今年の大会は、来年のリオオリンピックの出場権がかかります。これを逃すとその他の大会で、ワールドリレーズ上位8か国を除いた記録の世界ランキング上位8か国に入らないとオリンピックに出場が出来なくなってしまいます。しかも、2回のレースの記録の平均タイムです。ですから、このワールドリレーズでなんとしても出場権を獲得しておきたいのです。

 

私は日本陸上競技連盟の男子短距離部長という立場で、選手に帯同してバハマに行ってきました。日本からバハマには1日ではいけません。アメリカで1泊して、2日かけてバハマ入りしました。バハマは常夏の島国かと思いきやいきなり雷雨の日々が続き、すっきりとした天気の日は1日もありませんでした。それでも大会当日は雨が上がり、時折晴れ間も見え、風はあるものの絶好のコンディションでした。

 

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トーマス・A・ロビンソン ナショナルスタジアム

 

日本の4×100mリレーの布陣は、1走 大瀬戸一馬(法政大学)2走 藤光謙司(ゼンリン)3走 桐生祥秀(東洋大学)4走 谷口耕太郎(中央大学)という大学生中心の若いチームです。しかし決勝進出の力は十分にあります。

 

予選はアメリカと同じ組でした。2着まではそのまま決勝に進出できるところ、アンカー谷口選手はアメリカ、カナダに次いで3位あたりでゴールへ、最後にカナダをかわして2着でゴール。あぶなかった、と思いきやカナダはバトンを持っておらず失格。決勝に駒を進めました。カナダは1、2走のところでバトンパスを失敗し、すでに棄権していました。アンカーの選手はどうしても走りたかったのでしょうか。なぞです。

 

決勝は7レーン。良いレーンです。このレベルの4×100mリレーでは6、7レーンが走りやすいレーンです。アメリカは5レーン。ジャマイカは4レーンです。ジャマイカのアンカーは、ウサイン・ボルト選手です。ライバルであるブラジルは8レーンです。

 

日本は3着!銅メダル獲得です。リオオリンピックの出場権も獲得しました。
実は、日本チームは新しいバトンパスワークを試しています。以前少し紹介しましたが、日本は下からバトンを渡すアンダーハンドパスを採用しています。2001年からこのパスを採用し、世界大会ではかなりの確率で決勝に進出しています。2008年北京オリンピックでは、銅メダルを獲得しています。しかし、昨年アジア大会で中国に完敗してしまいました。しかも中国に37秒99という記録を出され、日本が持っていた38秒03のアジア記録を更新されてしまいました。

 

アンダーハンドパスは走りが安定して確実性の高いパスですが、オーバーハンドのようなバトンパスによる利得距離が大きく取れません。私は、今の日本のアンダーハンドパスでは限界が近いと判断しました。そこで、オーバーハンドパスに戻すことも視野に入れつつ日本のバトンパスワークの見直しをスタッフで検討しました。そして、2月から新アンダーハンドパスを取り入れることにしたのです。

2月の合宿では選手たちとも長い議論し、実際に試してそれを分析し、試行錯誤しながら開発してきました。まだ完成形ではありませんが、このメダル獲得である程度の形になってきたと思います。

 

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藤光(2走)→桐生(3走)のバトンパス

 

アンダーハンドパスは英語ではUP SWEEP PASSと言います。フランスが伝統的に採用していることからフランス式ともいわれます。日本式はUP SWEEP PASSともフランス式とももともと少し異なります。今回はさらに進化しています。

 

1着は短距離王国のアメリカ、2着も同じくジャマイカです。アメリカはエース、タイソン・ゲイ選手(9秒69)、ジャスティン・ガトリン選手(9秒77)を擁し、手を抜かない布陣です。ジャマイカのアンカーはウサイン・ボルト選手(9秒58)です。各国“ガチ”メンバーです。その中での3着は価値のあるものだと思います。

 

日本チームは、ご存じのとおり100m走9秒台の選手はいません。10秒01の桐生選手が最も速く、続いて大瀬戸選手が10秒23、藤光選手は10秒28、谷口選手は10秒45です。谷口選手は200mで良い記録(20秒45)を持っていますが、世界では少し見劣りするメンバーです。それでも世界3位です。日本式パスワークがもっと世界的に注目されてよいと思うんだけどなぁ。

 

とにかく、これでリオオリンピックに出場することができます。また日の丸をみたいものです。

 

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男子4×100mリレー以外は、男子4×400mリレー、女子4×100mリレー、4×400mリレー、みな残念ながら上位8位には入れませんでした。オリンピックに出場するためには記録を出していくしかありません。実は、北京世界陸上の出場権も昨年獲得することが出来なかったので、こちらも世界ランキング上位8位に入るために7月末まで記録を狙いに行かなければなりません。男子4×400mリレーは現在上位7位にいます。出場圏内ですが安心はできません。

なんとしても出場したいです。

応援してください!

 

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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