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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.99「砲丸投日本新記録」

 5月20日(日)大阪ヤンマースタジアムでゴールデングランプリという大会が開催されました。先月のコラムにも書きましたが、昨年までは川崎で開催されていた大会です。


 

 男子100mでは、桐生祥秀選手(日本生命)や山縣亮太選手(セイコー)をはじめ、ケンブリッジ飛鳥選手(ナイキ)ら、日本のトップショートスプリンターが出場し、日本人2度目、2人目の9秒台が期待されました。結果は日本人トップが山縣選手の10秒13(-0.7m)で、残念ながら9秒台とはなりませんでした。しかし、向かい風の中10秒13は好記録で、こうした記録を重ねていけば必ず9秒台を出せるチャンスが巡ってくると思います。期待したいですね。
 

 また、この後行われた4×100mリレーではリオ・オリンピックと同じオーダーの山縣・飯塚(ミズノ)・桐生・ケンブリッジのメンバーで37秒85という好記録をマークし、優勝しました。この記録は、今季世界最高記録です。37秒台を出しているチームすらありません。2020年のメダル獲得に向けて、良い感じで強化できています。


 

 ところで、この大会では、日本新記録が出ました。

 種目は男子砲丸投げです。砲丸投げはあまりなじみがないかもしれませんが、もしかしたら中学校や高校の授業でやった覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
 

 今回、日本記録をマークしたのはミズノ所属の中村太地選手です。中村選手は回転投法という投げ方で日本記録を達成しました。砲丸を首の横に乗せ、身体を1回転半して砲丸を投げる方法で、回転投法での日本記録は2人目になります。

 今までの日本記録のほとんどはグライド投法といって、投げる方向に背を向けて、身体を回転させず、直線的に砲丸に力を加えて投じる方法で出されたものです。1950年代に活躍し、ヘルシンキ・オリンピック(1952年)とメルボルン・オリンピック(1956年)で金メダルを獲得したアメリカのパリー・オブライエンが開発した投げ方で、オブライエン投法とも呼ばれます。
 

 現在の世界の主流は回転投げになりつつあります。現世界記録も回転投法です。

 回転投法は1970年代に旧ソ連などを中心に研究されてきましたが、旧ソ連のアレクサンドル・バリシニコフ選手が回転投法で20mを超える投てきをしてから注目されるようになりました。バリシニコフ選手は、オリンピックではモスクワ大会(1980年)の2位が最高でしたが1976年に22m00の世界記録をマークしています。
 

 現在の世界記録は、ランディー・バーンズ選手(アメリカ)が1990年に回転投法でマークした23m12です。グライド投げの世界最高記録は1988年、ウルフ・ティンマーマン選手(東ドイツ)がマークした23m06ですので6センチしか変わりません。

 どちらが良いのかは意見の分かれるところでもあります。
 

 しかし、世界の主流は回転投法になりつつあります。
グライド投法を採用する選手は少なくなってきました。回転投法の方が、砲丸に長く力を加えることが出来るので有利と言われてはいますが、日本ではいまだグライド投法が主流です。今回中村選手の日本記録は回転投法です。これを機に日本でも回転投法が注目されるようになるかもしれませんね。
 

 中村選手の今回の日本記録は18m85です。

 世界とは少し水をあけられてしまっていますが、あの重い砲丸を18m以上も投げるなんて驚異的です。

 砲丸は16ポンドの重量の鉄球です。16ポンドは7.26kgで、ボウリングの1番重い球と同じです。ボウリングではファウルラインから1番ピンまで18m288ありますので、1番重い16ポンドの球をダイレクトに当ててしまうわけです。すごいですね。
 

 この砲丸、鉄製の球体なのですが、日本製の砲丸が最も遠くに飛ばせられるということをご存知でしょうか。

 ニシ・スポーツという会社の制作した砲丸が、世界の大会で100%に近い使用率となっています。このニシ・スポーツの砲丸は重心が正確な中心にあり、全くずれがありません。水平なところにそっと置くと転がらずピタッと止まるのです。つまり砲丸が投じられてブレがなく飛んでいくのです。
 

 ニシ・スポーツ製の投てき物は世界で認められていて、ハンマー投げのハンマーも1番飛ぶと言われています。ハンマー投げの室伏広治氏に、大会にマイハンマーを2個持っていくというので、どうしてか聞いたことがあります。1つは自分専用。もう1つはほかの選手が自由に使える用と回答してくれました。投てき物を持ち込む場合、その投てき物はほかの選手も使用してよいというルールがあります。

 ですから、外国人選手が日本製のハンマーをこぞって使おうとしてくるのです。「1つはどうぞ使ってください」という訳です。

 日本の繊細で精密な技術力はすごいですね。嬉しくなります。
 

 今回、中村選手の日本記録は世界とはまだまだ差があります。身長2m近く、体重3桁の大男が16ポンドの鉄球をポンポンと軽々と投げていくのですから中々かないません。

 ちなみに女子は重さ4Kgで世界記録は22m63です。

 中村選手は昨年、ファールではありましたが19mを超える投てきをしています。中村選手の回転投法の技術は世界レベルと言われています。いつかこうしたパワー系種目でも日本人が活躍する日が訪れるかもしれませんね。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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