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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.96「未来のスポーツリーダー養成事業」

 3月4日(日)横浜市体育協会と横浜市スポーツ医科学センター共催の「未来のスポーツリーダー養成事業」の講師として日産スタジアムに行ってきました。

 

 

 この事業は、東京2020オリンピック・パラリンピック開催決定を受けて、横浜市スポーツ推進審議会によるジュニア競技力向上を目的としたもので、2部構成となっています。第1部は早稲田大学スポーツ科学学術院で教鞭をとられ、日本陸上競技連盟の代表チームの専属ドクターでもある鳥居俊先生によるケガ予防の講座、第2部が私と私の教え子である矢澤航選手(デサント所属)の2名による実技講習会が開催されました。矢澤選手も横浜市出身で横浜市立岩崎中学校出身のハードル選手です。リオデジャネイロ・オリンピックに110mHの日本代表として出場しています。

 ジュニアの競技力向上ということですので参加者は横浜市の中高生が対象でした。中学生のほうが多かったような気がします。

 

 第1部の鳥居先生の講座は中高生が対象ということで基本的な内容ではあったのですが、未来のスポーツリーダーを養成するということで、学術的な図表を用いて専門的な話題について事例を出しながらわかりやすくお話をされていました。

 今回、発育発達を考慮し、ケガをしにくい身体を作っていくにはどうしたらよいのかを示していただきました。最後には栄養面にもふれられ、参加者は大変勉強になったのではないでしょうか。私も勉強になりました。

 

 特に、中学1年生あたりでは、ハムストリングスが一番硬くなりやすい時期で、中2から中3は股関節が硬くなりやすいという話しは、普段あまり気にしていなかったのでなるほど言われてみればと…、いつも大学生を相手にしているので、と言いたいところですが、陸上教室でジュニアを扱っているのに、と反省しました。

 

 どういうことかというと、成長期に身長が伸びたり、手足が伸びたりするのは、骨が伸びるわけですが、骨が伸びると筋や腱が引き延ばされるということになります。そこで筋・腱の緊張が高まることで身体が硬くなってしまうのです。骨が伸びるのは一斉に伸びて一斉に終わりを迎えるわけではありません。部位によって時期が異なります。したがって、硬くなる部位の時期も違ってくるのです。

 

 身長が急激に伸びる時期は一生で2回あります。1回目は生まれてすぐの時期で、第1次発育急進期といいます。そのあとを第2次発育急進期と呼びます。第2次発育急進期で身長が1年間で1番伸びる年齢を最大発育速度(PHV: Peak Height Velocity)年齢といい、男子で平均12.8歳、女子は10.6歳に該当します。ただし個人差が大きく、男子では16歳でPHV年齢がくる人もいます。また、伸びる値も平均は男子が約8㎝、女子が約7㎝と言われていますが、こちらも個人差が大きいです。1年で10㎝以上伸びる人もいます。

 

図1 身長発育速度曲線(からだの発達:高石昌弘ほか、大修館書店1981)

 

 この急激に伸びる時期に膝が痛くなったり、踵が痛くなったりしませんでしたか。もしくは今痛いか、これからの人もいるかもしれませんね。筋や腱は骨よりも発達が遅いので骨が急激に伸びることに対応できません。そこで筋や腱が硬くなり、腱は骨に付着しているわけですから強い運動をすることで付着している部分の骨を変形させてしまったり、骨折を引き起こしてしまうことがあるのです。骨が成長している時は成長軟骨があり、骨端線という線があります。ここはまだ骨の形成が終わっていないわけですから剥離してしまったり骨折してしまったりするわけです。若年層の骨はまだ柔らかいですから変形もしやすいのです。

 

 あまり書くと脅しているような感じになってしまいますが、適度な運動は骨密度を高め、骨を強くもします。この時期の過度な運動には注意が必要ということです。もちろん栄養も大切です。

 

 さて、第1部が終わり、第2部は実技講習です。私と矢澤選手が担当しました。矢澤選手はハードルを担当し、私は短距離と跳躍、長距離を担当し、「走る」ということをメインに指導しました。私も未来のスポーツリーダー養成ということで学術的な視点から講座を進めました。話しが多すぎて実技が少なくなってしまいました。

 

 

 私はいつもこうした講座で言っていることがあります。

 「陸上教室でやっているドリルや動かし方はいろいろなところでやられているし、どこでも同じようなことをしています。多分今日やることは、皆さんもやったことがあるでしょうし、目新しいものはないかもしれません。これだけ情報化が進み、インターネットも発達して誰もが情報を簡単に得ることができます。陸上競技に関する研究もたくさん探すことができます。練習は何をやるかではなく、どうやるかが重要です。同じことであったとしてもやり方や意識、イメージが違えば全く違うものになります。鳥居先生の講義で同じ練習をしているのに怪我をしてしまうものしないものがいるという話がありました。練習も同じです。同じ練習をしていても記録が伸びる人もいるし伸びない人もいます。これはなぜでしょう。どこを意識するか、何を意識するかが重要なのです。」

 これは何をするにも必要なことかもしれません。

 トラックシーズン間近です。長い冬期練習を意味のあるものにしたいものです。

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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