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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.95「ぬけぬけ病」

 

全国各地で駅伝大会が開催され、ロードシーズン真只中ですね。11日には「かながわ駅伝」が開催され、横浜市は惜しくも2位で三連覇を逃しました。

 

そんな駅伝で気になるニュースがありました。箱根駅伝で7区を走っていた駒澤大学のエース工藤有生選手(4年)が片足の力が抜けてしまうというアクシデントで、区間14位に沈み、チームも総合12位とシード権を逃してしまったのです。

 

駒澤大学がシード権を獲得できなかったのは9年ぶりで、我々関係者も驚きました。工藤選手は万全であれば2区を走るほどの選手で、ユニバーシアードのハーフマラソンでも銀メダルを獲得しているほどの実力者です。

 

工藤選手は「足が抜けてしまって、力が入らない。地面をけれない。」とコメントしています。昨年から症状が出ていたようで、治療はしているものの原因は不明ということです。

 

この症状に関して、元箱根駅伝選手で陸王にも出演していた俳優の和田正人さんがツイッターでコメントしています。

 

 

 

この症状、正式な診断名はなく、というかわかっていないようです。ランナーの間では、和田さんのコメントのように「ぬけぬけ病」や「ローリング病」、「ランナーズジストニア」や「カックン病」と呼ぶ人もいるそうです。

 

短距離ではこの症状がないかというとそうではありません。短距離でも「膝が抜ける」とか「足に力が入らない」という言葉を聞くことがまれにあります。私は「ぬけぬけ病」と聞いて、最初は「なんだろう。聞いたことがないな」と思ったのですが、「そういえばそういうことを言っていた学生や選手がいたな」と思い出しました。

 

先に書いたように原因は特定されていないようです。脳や神経系が原因という人もいますし、「イップス」のような精神的なものという人もいます。イップスも正確な原因が解明されていなかったと思いますからこのような症状が出てしまったらどう対処したらよいのでしょうか。

 

私はこの「足に力が入らない」と言ってくる選手に対して、スクワットの姿勢をとらせていました。スクワットの姿勢をさせて、後ろから観察します。

 

スクワットの姿勢はなるべく膝を前に出さないようにします。スクワットをするときにだんだんと腰を下げていきますが「足の力が抜ける」という選手は腰が下がっていくときにはじめはまっすぐ下がるのですが、深くなってくるとどちらかに腰が逃げていきます(図1)。

 

自分ではまっすぐおろしているつもりでもどうしても曲がってしまうのです。自覚はありません。足に力が入らなくて、この症状が出る選手は、スクワット時にまっすぐに身体が下がっていくように指導していました。

 

しかし、自覚症状がないので鏡を見ながらスクワットをさせたり、徒手で強制したりしなければなりませんでした。「足に力が入らない」と言ってくる選手で、スクワット動作でこの症状が出る選手は多かった気がします。

 

図1 スクワット時の腰の逃げ

 

また、坐骨神経の通る梨状筋付近や、腰部の張りが強かったのでそこを重点的にケアするように指示していました。それで症状が緩和されたかどうかは確実ではありませんが、その選手たちは大会では走ることができていました。

 

この方法が正解なのかはわかりません。ただ、「ぬけぬけ病」を抑えるには身体のバランスや体幹の強化が大切と話している人も多いので効果はあるのかもしれません。

 

「ぬけぬけ病」に悩まされてしまったら治療とこまめなケアが必要です。怪我無く健康に、ランニングを楽しみたいですね!

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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