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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.75「鉄剤」

 

2016年4月、日本陸上競技連盟は競技者の貧血に関して過剰な鉄分摂取が蔓延しているとして注意喚起をしました。これは、マラソンブームによって増加した市民ランナーの貧血やその治療、予防に関して正しい知識と認識をしてほしいということ、駅伝チームやエリート競技者においても鉄剤の安易な摂取をなくすことが目的です。

 

まず、貧血について簡単におさらいしましょう。貧血は、赤血球中のヘモグロビンが不足している状態で、貧血になると疲れやすくなったり、だるくなったりして疲労が抜けなくなります。ヘモグロビンは酸素を運搬する役目があります。疲労回復や有酸素運動にはヘモグロビンが大切な役割を担っています。

 

ヘモグロビンはグロビンというたんぱく質とヘムという鉄分を含む色素からできている複合たんぱく質です。ですからヘモグロビンが不足している時に鉄分を補給する必要があるのです。

ロードを走るランナーは貧血になりやすいともいわれています。なぜなら着地した時に足から赤血球が壊れてしまうからです。

 

 

走っている写真

 

 

なぜ、安易な摂取がいけないのかというと、鉄分が身体に多く入りすぎてしまうことによって内臓へ負担がかかり、吐き気や下痢などの中毒症状がでることがあるからです。内臓に沈着してしまった場合は機能障害を引き起こすこともあります。

 

確かに貧血には鉄剤の摂取が効果的な場合があります。ただし、適切な量以上に摂取することは身体に悪影響を及ぼしてしまうのです。

 

特に注意すべきは、静脈注射です。医師の診断のない静脈注射(6時間当たり50ml)は現在、陸上競技ではドーピングとして禁止されています。

 

鉄剤の摂取がダメと言っているのではありません。医師の診断の下、正しい摂取をしなければならないということです。

 

 

私は今までに、選手が静脈注射をしていたという話を聞いたことがあります。中学生や高校生はドーピングに関する知識がそれほど深くありませんし、ドーピング禁止薬は毎年のように追加されたり変わったりします。また、ドーピングというと口からの薬物の摂取ばかりに注目されがちですが、点滴などの静脈注射や塗り薬によるものもドーピング違反のものがあることはあまり知られていないようです。ですから、よくわからないうちに鉄剤の静脈注射をしてしまっているのです。これは指導者の責任です。この注意喚起は指導者にも向けたものと受け取ってよいと思います。

 

 

かつて「私は貧血気味だから、鉄剤を注射しないと」と平気でいう選手の話を耳にして、「え、それダメだよ」と伝えたことがあります。安易な鉄剤の静脈注射は、陸上長距離界において蔓延していたのです。特に女子などは「痩せれば走れる」神話のもと、体重コントロールのために食事を減らし、厳しい練習を積んでいきます。結果、貧血を引き起こしてしまいます。そこで即効性のある静脈注射に走ってしまうのです。直接静脈に注射するので即効性があるのです。

もちろん男子にも同じことが言えます。

 

 

競技者の貧血は多くの場合、鉄欠乏性貧血です。そこで日本陸上競技連盟は貧血の予防・早期発見・適切な治療をめざし、「アスリートの貧血対処7か条」を作成しています。

 

 

日本陸上競技連盟「アスリートの貧血対処 7か条」
1. 食事で適切に鉄分を摂取
2. 鉄分の摂りすぎに注意
3. 定期的な血液検査で状態を確認
4. 疲れやすい、動けないなどの症状は医師に相談
5. 貧血の治療は医師と共に
6. 治療とともに原因を検索
7. 安易な鉄剤注射は体調悪化の元

 

 

加えて日本陸連は、1日あたりの鉄分摂取の上限を男性は50mg、女性は40mgまでに設定しています。詳しくは以下をお読みください。

詳しくはこちらをクリック

 

 

鉄分は食事から摂るのが一番良いと思います。鉄は吸収率が悪いですが、たんぱく質やビタミンCと一緒に摂取すると吸収率が良くなると言われています。口から摂取した鉄は腸で吸収されますが、吸収できなかった鉄は排泄されてしまいます。普段の摂取で過剰に摂ることはないと思います。

 

ただ、スポーツ選手は貧血になりやすいこともあります。貧血が疑われたら医師の診断を受けることを勧めます。

 

 

走っている写真2

 

 

先にも書きましたが、こうした問題は本人だけでなく指導者の問題でもあります。ドーピング違反で違反があった時に選手ばかりが取り上げられますが、指導者の責任も大きいと思います。

ぜひ指導される方もドーピングに関する知識を身に付けてください。

 

日本陸上競技連盟の医事委員会のページです。参考にしてください!!

日本陸上競技連盟の医事委員会ページはこちらをクリック

 

 

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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