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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.135「オレゴン世界選手権」

 

 

7月15日(金)から24日(日)、アメリカ・オレゴン州ユージーン・オレゴン大学内のヘイワード・フィールドで、第18回世界陸上競技選手権大会が開催されました。

このユージーンのヘイワード・フィールドは、1919年に建設されたアメリカの陸上競技の聖地と呼ばれる歴史ある競技場です。全米陸上競技選手権はこの会場で開催されています。

 

 

競技場の最大収容人数は2万5000人で、観客とトラックの距離が近いことや、投てき種目がフィールドの中央に位置しているなど、観せるということにこだわった素晴らしい競技場です。観客席からは選手の表情を間近で見ることでき、走る音や息遣いまで聞こえてきます。

 


男子100m決勝 サニーブラウン選手決勝進出!!

 

この世界選手権は2021年に開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で東京オリンピックが1年延期になり、それに伴って開催が1年延期となりました。この陸上の聖地、ヘイワード・スタジアムにコーチとして行くことができたことは、とてもうれしいことです。

横浜市関係者では、このコラムでもたびたび紹介しておりますが、男子110mHに住友電工の泉谷駿介選手(横浜市立緑が丘中学校―武相高校出身)、男子35キロ競歩に富士通の松永大介選手(横浜市立浜中学校-横浜高校出身)、女子3000m障害に大東文化大学4年の吉村玲美選手(白鵬女子高校出身)の3人が出場し、皆頑張ってくれました。

しかしこの大会、日本選手団にとって大変な大会となってしまいました。報道でも大きく取り上げられていましたが、日本選手団に新型コロナ感染症のクラスターが起きてしまったのです。

選手、スタッフ全員が成田空港でPCR検査をして陰性を確認してから出国しているので、現地で感染してしまったことと推測されます。大会初日からマラソンで期待のかかった選手やスタッフ複数名に陽性者がでてしまい、マラソン代表を含め数名の選手が大会に出場できなくなってしまいました。そして、次々に陽性者が増えてしまいました。

現地では感染してしまう要素は多々ありました。まずアメリカに着くと、空港ですでにマスクをしている人はほとんどいません。普通に大声でしゃべっています。食事や飲酒も制限なしで、ほぼ対策はなされていません。

宿舎であるオレゴン大学内の選手村(学生寮)は、日本以外の選手も同じ棟で宿泊しており、マスクはなし、複数人部屋、我々スタッフの宿舎はこれらに加え共同トイレ、共同シャワーです。食事はビュッフェスタイルで、こちらもマスクなしです。作っている人も盛り付けている人もほぼマスクをしていません。消毒液はありますが、使っている人はいません。

 

 

競技場も同じでした。競技場はさらに密状態で、観客は大声で叫んでいます。肩を組んだり抱き合ったり普通にしています。マスクしているのは日本人くらいだと話題になりましたが、その通りでした。飲食も普通にしています。

イメージとしては菌がうじゃうじゃ蔓延している大集団の中に、無菌の我々が貧弱な防備で飛び込んでいくような印象です。完全に「そりゃ感染するでしょ」という環境です。

日本選手団のクラスターの発生により、大会の組織委員会も対策をとってくれました。我々を隔離したのです(え、こっち?という感じ)。そこがまた劣悪な環境でした。食事も決められた食堂で(といってもビュッフェスタイル)、隔離された部屋で食べることになりました。

大会組織委員会の通達があり、大会に参加するすべての選手、スタッフには室内でのマスク着用が推奨され、室内やバス移動では外国人選手、スタッフもマスクをするようになりました。しかし、強制力は低く、あまり守られてはいませんでした。

我々は毎日感染の不安におびえながらも、ベストのパフォーマンスをすべく過ごしていました。我々は症状が出ていないのに検査をしていたわけではありません。発熱などの症状が出てしまい、共同生活をしている以上、日本選手団内の感染拡大を抑えるために検査をするしかなかったのです。

我々に日本人選手団以外の情報はあまり入ってこなかったのですが、外国人選手での陽性者は少なかったようです。検査を受ける人も少ないとは耳に入ってきました。体調が悪くても検査を受けなかったのかもしれませんが、我々とは違う免疫機能を獲得していたのかもしれません。

そして、我々は帰国するためにも72時間前の陰性証明が必要となります。これもまた恐怖でした。もしかしたら感染しているのではないかと。そして、やはり何人かは陽性となってしまい、帰国が遅れてしまいました。わたしは幸い感染せずに大会を終えることができましたが、この大会は今までにはなかったストレスが多々あり、気を遣う大会となりました。

我々日本選手団だけでなく、日本からの応援団の方々や、テレビ中継のスタッフ、解説陣にも感染者が出てしまったと聞いています。日本国内でも、プロ野球や大相撲で感染が蔓延しているというニュースが、オレゴンでも話題となっていました。

この経験を次に活かし、と言いたいところですが、このような経験は二度としたくないですね。陸上競技の聖地の印象が、、、、。今回の一件が日本のコロナ対策について、再考するきっかけになればあのような過酷で地獄のような2週間を過ごした意味があったのではないかと思いますが、どうなのでしょうか。

来年も世界選手権がハンガリー・ブダペストで開催されます。2025年には東京での世界選手権開催が決定しました。このような状況が早く収束して選手が競技に集中できる環境になってほしいものです。今回のような遠征は勘弁願いたいものですね。今にして思うと、東京2020オリンピックは感染症対策が素晴らしい対応だったのですね。

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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