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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.128「日本選手権に向けて」

6月6日、鳥取県で開催された「布勢スプリント2021」で男子100m走で山縣亮太選手(セイコー)が9秒95をマークし、サニブラウン・ハキーム選手(当時フロリダ大)が2019年にマークした日本記録9秒97を更新しました。
これで、日本人9秒台選手が4名、オリンピック参加標準記録10秒05を期間内に突破している選手は5名となり、日本の男子短距離は世界的に見ても層の厚い国になってきたといえます。

100mオリンピック参加標準記録(10秒05)突破者
9秒95 山縣亮太(セイコー)
9秒97 サニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)
9秒98 小池祐貴(住友電工)
10秒01 桐生祥秀(日本生命)
10秒01 多田修平(住友電工)

オリンピックの各種目の代表は各国3名までです。この中から3名しか出場できません。オリンピック参加標準記録を突破し、6月24日から大阪・長居で開催される日本選手権で3位以内に入るとその種目のオリンピック日本代表に即時内定します。

オリンピック参加標準記録を突破している選手が日本選手権の3位以内に入らないとワールドランキングなどもからんできますので、選考は少し複雑になります。
まずは、日本選手権の3位に入ることがとても大事です。

 

男子100mも日本選手権での熱い戦いが予想されるのですが、今、日本ハードル界が大変面白い状況になっています。

男子110mHでは、金井大旺選手(ミズノ)が4月29日広島で開催された織田記念陸上(第55回織田幹雄記念国際陸上競技大会)で13秒16の日本新記録をマークしました。この記録は世界大会でも決勝進出が可能なほどの好記録です。
金井選手は私が指導しています。

この男子110mHという種目は、ほぼ完成を迎えた種目であると思います。110mの間にハードルは10台、インターバルも固定されています。1台目までは13.72m、その後のハードル間は9.14m、そして最後のハードルからゴールまでは14.02mです。多くの選手が1台目までを8歩、ハードル間を3歩で走破します。近年は1台目を7歩で行く選手が出てきましたが、中学生から世界のトップまでほぼ同じ歩数で走ります。

ハードルの高さは106.7cmですから、大きい選手が有利と思われがちですが、大きすぎてもハードル間が詰まってしまう(近くなってしまう)とこがありますし、スピードが速い選手が有利ではありますが、こちらも9.14mというインターバルが決まっているので足を素早くさばいて速度を上げなければなりません。ストライドを広げることでのスピード強化では、ハードル間が詰まってしまう可能性があります。脚を素早く回すのにも限界があります。記録を伸ばす要素が少ない種目なのです。スプリントハードル

 

100m走は、1968年ジム・ハインズ選手(アメリカ)が高地ではありましたが世界で初めて10秒を突破する9秒95をマークしました。現在の世界記録は2009年にウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)がマークした9秒58です。41年かけて0秒37記録を短縮したことになります。

一方、110mHはニアマイア選手(アメリカ)が1981年に初めて12秒台に突入する12秒93をマークし、現在の世界記録はアリエス・メリット選手(アメリカ)が2012年にマークした12秒80です。31年かけてわずかに0秒13しか記録を短縮できていません。メリット選手の記録は、1台目までの歩数を8歩から7歩にしたことが大きく影響しているので、もし8歩のままだったとしたら12秒88の劉翔選手(中国)が世界記録でしたから0秒05しか更新できていないことになってしまいます。

100m走の記録推移

110mH走の記録推移

また、100m走を9秒台で走破した選手は150人を超えますが、110mHで12秒台をマークしているのはわずかに21名です(2021年6月10日現在)。毎年1~2名しか12秒台を達成できず、13秒0台~1台で、世界のトップクラスに位置することができます。

したがって、金井選手の13秒16は十分オリンピックで決勝を狙える記録で、その後に続く高山峻野選手(ゼンリン:13秒25)や泉谷駿介選手(順天堂大:13秒30)も世界クラスの記録を持っています。
泉谷選手は前回のコラムでも紹介した横浜市出身の選手。5月20日(木)に相模原で開催された関東インカレ(第100回関東学生陸上競技対校選手権大会)の予選で、オリンピック参加標準記録(13秒32)を突破しました。
関東インカレ(相模原ギオンスタジアム)

 

そして、女子100mHでも、6月1日に大阪・長居で開催された木南記念陸上(第8回木南道孝記念陸上競技大会)で、寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)が12秒87日本新記録をマークしました。さらにその5日後、6月6日に青木益美選手(七十七銀行)選手が12秒87をマークし、寺田選手に並びました。

女子100mHのオリンピック参加標準記録は12秒84です。日本選手権では2人ともに突破する可能性があり、こちらも楽しみです。この2人に次ぐ記録を出しているのが鈴木美帆選手(長谷川体育施設)で、鈴木選手も13秒00とオリンピック参加標準記録を狙える位置にいます。
鈴木選手も横浜市、神奈川県立松陽高等学校出身の選手で、私がコーチをしています。

 

さらには、男子400mHもオリンピック参加標準記録を突破している選手が4名います。

男子400mHオリンピック参加標準記録(48秒90)突破者
48秒68 黒川和樹(法政大学)
48秒80 安部孝駿(ヤマダ電機)
48秒84 山内大夢(早稲田大学)
48秒87 豊田将樹(富士通)

黒川選手と豊田選手も、私が指導しています。
いや、日本選手権は忙しいー。

 

加えて、ハードルではなく3000m障害ですが、順天堂大学の三浦龍司選手が5月9日に新国立競技場で開催された東京2020テストイベント(READY STEADY TOKYO 陸上競技)で、8分17秒46の日本記録をマークし、オリンピック参加標準記録を突破しています。
READY STEADY TOKYO(新国立競技場)

 

6月24日から長居陸上競技場で開催される「日本選手権(第105回日本陸上競技選手権大会)」のハードル・障害種目は、高いレベルでの戦いとなることが予想されます!
女子100mH、男子400mH、3000m障害決勝は26日(土)、
男子110mH決勝は27日(日)です。
ぜひ注目してください!

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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