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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.104「ポイント制」

 10月27日(土)から28日(日)に北九州市本城陸上競技場でリレーの日本選手権がありました。この大会は昨年までは日産スタジアムで開催されていた大会ですが、日産スタジアムがグランドの改修工事のため使用できなかったため、北九州市で開催されました。来年も北九州での開催が決まっています。また横浜に帰ってきてほしいですね。

 世界リレー選手権も開催が決まりましたし。神奈川勢では女子で、相洋高校が実業団や大学生のいるなか4×100mリレーで4位、4×400mリレーも5位に入り、好記録をマークしました。

 この大会で、概ね日本のトラックシーズンは終了となります。これからはロードシーズンに入ります。

 

 来年、2019年は世界選手権の開催年です。カタールのドーハで開催されます。そして再来年は、いよいよ東京オリンピックを迎えることになります。

 この世界選手権、今までと出場権の獲得方法が大きく変わります。今までは参加標準記録が国際陸連によって提示され、この参加標準記録を突破して出場権を獲得していたのですが、これが撤廃され、ランキング制となります。ただし正確には、完全撤廃ではなく、特別にレベルの高い参加標準記録が設定されます(予定)。これは世界トップクラスの選手のみのための標準記録となりそうです。救済措置に近いものなのでしょうかね。

 

 ランキング制というとテニスや卓球、バドミントンなどラケット競技では定着しています。サッカーやバレーなどの球技でも国のランキングが提示されています。もちろん陸上競技も記録が出ますからランキングは出されています。しかし、今回のランキング制は記録ではありません。テニスや卓球のようなランキングの順位付けをします。

 

 国際陸上競技連盟は2018年9月にこのランキング制の詳細と実際のランキングを発表するといっていたのですが、9月の発表ではランキング制の概要だけの発表にとどまり、2019年1月に実際のランキングを発表するとしています。この制度は複雑で、正確にやる必要があるので、公表する段階に至らなかったのでしょう。

 

現段階の詳細はこちら

WORLD RANKINGS TESTING AND REVIEW SITE

 

 このランキング制、どのようにランク付けするかというと、まずは記録(リザルト・スコア)。5レースの記録をポイント換算し平均化します。換算表は10種競技や7種競技などで使用されるハンガリアンテーブルと呼ばれる換算表を参考に作成されました。
次にその記録を出した大会のグレードによって、ポイントが加算されます。さらにその大会での成績も重要です。これをプレーシング・スコアと言います。
例えばオリンピックや世界選手権は当然ですが一番高いグレードの大会となります。ここで優勝すると記録ポイントに350ポイントが加算されます。2位は310ポイント、3位は280ポイントです(種目によってポイントは異なります)。
大会のグレードは、オリンピック、世界選手権が最高のOW、以下ダイヤモンドリーグファイナルDF、ダイヤモンドリーグや世界室内などのGW、そして、GL、A、B、C、D、Eと続き、最低カテゴリーがFとなります。
今年インドネシアで開催されたアジア大会はAカテゴリーになります。大阪で開催されているチャレンジミートもAカテゴリーです。日本選手権はBカテゴリーです。ただ、これも変更になるかも知れません。

 

 ランクの低い大会では1位でもポイントが低くなってしまいます。Fカテゴリーの1位はわずか15点しかありません。したがって、良い記録を出し、上位に入るのはもちろんのこと、その大会のグレードが大切になってくるのです。

 

 このポイントは5レース(種目によります)の平均のポイントとなりますから選手は最低でも5レースは出場する必要があります。そして、種目によってランキング上位何名かが、世界選手権やオリンピックの出場権を得ることができます。出場できる人数(ターゲットナンバー)は、100mでは56名が選ばれます。この人数も種目によって異なります。

 

 そして、100mや200m、走り幅跳びなど風が影響する種目に関しては風によってポイントが増減されます。追い風4m/sだと24ポイントが引かれます。逆に向かい風4m/sだと24ポイントが加算されます。追い風2m/sまでは加算ポイントはありませんが、向かい風1mでも6ポイント加算してくれます。

 

 また、すでにポイント制度は始まっているのですが、ポイント獲得締め切り日の12か月前の記録は60ポイント減、11か月だと40ポイント減、10か月で20ポイント減や世界記録を樹立すると20ポイント加算のボーナスや近い種目、例えば100mでいえば60mや50m、400mだと300mなどでもポイントが与えられるなど細かいポイントの換算があります。ややこしいですよね。定着するまでは混乱しそうです。

 

 

 なぜこのようなランキング制度となったかというと、今までの記録で信憑性の低いものが散見されたからです。よりフェアで透明性のある陸上競技運営をするために考えられたのがこのランキング制度です。
ただし、世界に大会は山のようにありますし、選手も大量にいます。実際、名前が抜けているや、重複している、記録を出したのに反映されないなどという問題が生じているようです。

 

 ただ、始まることが決まっている以上我々もこれに対応していかねばなりません。よりグレードの高いカテゴリーの大会に出場するため海外に行くのか、国内の大会のグレードを上げていかなければならないのか、何が最適なのか戦略を立てる必要があります。

 

 今、日本陸上競技連盟ではこのランキング制に備え、日本選手が世界の大会に出場するために、どのように戦略を立てればよいのかを詳細に分析しています。この制度の正確な情報は、おそらく国際陸上競技連盟が発表するとされる1月になると思います。
ハマスポに詳細で正確な発表前に紹介したのは、このランキング制度への変更があまり認知されていないからです。選手、指導者はこのランキング制にいち早く対処し、戦略を立てていかなければなりません。一人でも多く世界大会やオリンピックに出場していただきたいものです。

 

 今回の話は、ハマスポをお読みいただいている方にはピンとこない話かもしれませんが、我々にとっては大きな問題です。これからは、海外に出ていく日本選手も多くなると思いますし、国内の大会がグレードを上げることで海外の有名選手がポイントを取りに来るかもしれません。その背後にはランキング制があるということがわかるとまた違った見方ができるのではないでしょうか。

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ポイント制 追記(2018年11月21日更新)

 ポイント制について熱く語ったコラムを書終え、原稿を提出した翌日、ニュースが飛び込んできました。なんと、国際陸上競技連盟が2019年世界陸上競技選手権の参加資格にポイント制を採用しないとの声明を発表したのです。

 

 参加資格は参加標準記録となり、前回と同じです(多少変わります)。昨年から2019年からポイント制になるといわれ、すでにポイント制のポイント獲得時期に入っていることもあり、その対応に追われてきた日本陸上競技連盟や選手、スタッフ、関係者は肩透かしを食らったような、振り回されたような、もう笑うしかない感じです。今まで、その対応に追われ多大な時間をかけて記録の分析をしたり、世界中の陸上大会を調べたりと大変な思いをしてきたのはなんだったのでしょうか。

 

 ただ、もしかしたらこんなことになるのではないかという予想はありました。それは、このポイント制に問題点が散見されていたからです、欧州有利ではないかという批判もあったようです。

 

 今回、ポイント制は見送られましたが、いずれ実施するのではないかと思います。早ければ2020年東京オリンピックには採用されるかもしれません。国際陸上競技連盟は時間をかけてポイント制の問題点を解決していくことでしょう。その時には今回の日本の対応や分析が意味を成すものになるはず!です。無駄ではなかった。と思いたい…。

 

 

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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