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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.100記念!「2018年日本選手権」

 ハマスポ「苅部俊二のダッシュ!」をお読みいただいている皆様、今回のダッシュ!、連載100回を迎えました!!

 

 2010年4月からこのコラムを担当させていただいておりますので、8年以上も続いているのですね。読者の皆様と公益財団法人横浜市体育協会担当者様のおかげです。厚く御礼申しあげます。

 

 2015年に横浜を離れてしまったので、最近は、横浜がらみの内容が少なくなってしまい申し訳ありません。なるべく、生まれ育った横浜の情報を入れつつ、陸上競技の最新ニュースや皆様が楽しめる情報を発信していきたいと思います。

 これからも「苅部俊二のダッシュ!」を、お読み頂ければ幸いです。

 今後ともよろしくお願い致します。

 

それでは、100回号に入ります。

 

 6月22日(金)から24日(日)まで、山口県の維新百年記念公園陸上競場で第101回日本陸上競技選手権大会が開催されました。

 横浜市関係者では、男子1500mで東海大学の館澤亨次(たてざわりょうじ)選手が優勝しました。館澤選手は、横浜市立中山中学校出身です。高校は、埼玉県の埼玉栄高校に進学しました。高校では、全国高校駅伝などで活躍し、現在東海大学3年生、2018年箱根駅伝でも8区を区間2位で走っています。

 大学生で実業団選手も走る日本選手権で優勝というのはすごいことです。今後の活躍に注目したいですね。

 

 

 さて、この大会、日本新記録が2つ樹立されました。その2つの種目は、男子円盤投と男子110mHです。

 円盤投は、昨年、2017年に綜合ガードシステムの堤雄司(つつみゆうじ)選手が日本記録を38年ぶりに更新したのですが、今回は、トヨタ自動車所属の湯上剛輝(ゆがみまさてる)選手が日本記録を更新しました。湯上選手は、3投目に日本人初の61m台となる61m02を投てき。そのあと、4投目で62m03を記録して62m台にのせると、5投目に62m16にまで記録を伸ばしました。1大会で3回の日本記録更新は、会場を大いに盛り上げました。

 

 実は湯上選手は、生まれつき耳に障害があり、両耳に補聴器を付けないとほとんど聞こえないそうです。2017年に行われた第23回夏季デフリンピック競技大会にも出場し、銀メダルを獲得したこともあります。

 湯上選手は、耳に障害があることを「何てことはない」とコメントしています。彼の活躍は、多くの人に勇気を与えてくれますね。

 

 

 

 そして、もう1つの日本記録は男子110mHで福井県スポーツ協会所属の金井大旺(かないたいおう)選手です。この選手は、今年法政大学を卒業した選手で、私の教え子です。前々日本記録も私の教え子でしたので日本記録を奪還した形になりました。

 記録は13秒36(-0.7)で、今季世界ランク19位相当の記録です。

 

金井選手と私

 

 

 この110mHという種目は、走種目の中で世界的に1番記録が伸びていない種目と言われています。

 レナルド・ニアマイア選手(アメリカ)が、人類で初めて110mH12秒台を記録したのは、1981年のことでした。記録は12秒93です。現在の世界記録は、アリエス・メリット選手(アメリカ)が2012年に記録した12秒80です。30年近くかかって、0秒13しか更新していないのです。ちなみに、2018年に12秒台(7月現在)をマークしているのは1名しかいません。

 

 男子100mでは、1968年にジム・ハインズ選手(アメリカ)が、人類初の電気計時9秒台に突入しました。記録は9秒95です。現在の世界記録は、ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)が2009年にマークした、9秒58です。

 100mも記録の伸びはわずかにみえますが、0秒37の更新をしています。100mの更新と比較して、0秒13の更新しかない110mHは少なく感じますよね。

 さらに、100mで9秒台を達成した選手は130人を超えますが、110mH12秒台達成はわずか20人です。このことからも110mHの記録更新は非常に困難なことがわかります。

 

 ハードル走は1台目までの距離は13m72、ハードル間は9m14と決められています。1台目までは7歩から8歩、ハードル間は3歩で、これはほとんどの選手が同じです。中学生からオリンピック選手まで、ほぼ同じ歩数で走るという特殊な種目なのです。

 歩数が同じということは脚を動かす速さ、つまりピッチを上げなければ記録は短縮しないのですが、ヒトが脚を素早く動かすには限界があります。

 

 身体が大きければ有利かというと、大き過ぎるとハードル間が狭すぎてうまく走れません。スピードが高い選手も、ストライドを大きくしてしまってはハードルが近くなってしまいます。もちろん、足が速いほうが良いのですが、これをハードル間に合わせるのは高い技術力が必要です。トップ選手にとって、9m14のインターバルは狭すぎるので、ピッチを上げてストライドを制限して、窮屈に走っているのです。

 現在、アリエス・メリット選手の記録を破りそうな選手は見当たりません。男子110mH走という種目は、完成形を迎えてしまっている競技種目なのかもしれません。

 

 世界の上位が停滞しているということは、金井選手をはじめとした日本人選手にとってはチャンスです。世界との差は、これから縮まっていくと考えられます。

 

 100m走と同じように、日本のハードル界も群雄割拠、戦国時代を迎えています。

 今回日本記録を樹立した金井選手をはじめ、リオデジャネイロ・オリンピックに出場した横浜市立岩崎中学校出身でデサント所属の矢澤航(やざわわたる)選手や、ヤマダ電機所属の増野元太(ますのげんた)選手、ゼンリン所属の高山峻野(たかやましゅんや)選手など、13秒4台をマークしている選手が数名います。

 もしかしたら、100mよりも前に110mHで、日本人の世界大会決勝進出が見られるかもしれませんね。注目してください!!

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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