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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.56「4×100mリレー」

10月はスポーツシーズン。様々なところで大会が開催されました。

中旬には長崎で国体が開催されました。神奈川県は男子が成年で優勝2つ(110H、走高跳)、準優勝2つ(400m、400mH)、少年は優勝1つ(走幅跳)、準優勝1つ(棒高跳)で入賞も多く、大活躍でした。男女総合は以下の順位でした。

1位 東京 134.5点
2位 大阪 118点
3位 群馬 101点
4位 静岡 97.5点
5位 兵庫 96点
6位 愛知 95点
7位 埼玉 94.5点
8位 神奈川 94点

神奈川県は女子の得点が28点と振るわず、男女総合は8位となってしまいましたが、男子だけでみると東京を抑え1位です(1点差)。ただ、男子総合はありません。
来年は女子がんばって!

110mH優勝の矢澤航(デサント)は愛弟子です。貢献できてよかった。

国体の期間中には箱根駅伝の予選会が立川の昭和記念公園でありました。我が法政大学は12位に沈み、本選出場を逃してしまいました。また寂しい正月となってしまいました。
来年の予選会に向けてすでに始動しています。必ず出場します。

10月31日から11月2日にかけて、新横浜の日産スタジアムで中学生の大会であるジュニアオリンピックと日本選手権リレーが開催されました。

神奈川県勢はというと、こちらは女子が活躍し、200mで優勝。4×100mリレーで3位に入賞しました。特に4×100mリレーは47秒46という好記録でした。1位と2位は中学記録を更新するレベルの高いレースでした。この4×100mリレーは中学校が単独で出場するのではなく、県単位で選抜チームが編成され、異なる学校の選手でチームを組みます。
国体もそうですが、県の代表としてチームを編成し、合同で練習して大会に挑むというのは良い取り組みですね。

さて、日本選手権リレーの方はというと、男子4×100mリレーでなんと法政大学が38秒81という大会新記録、今季日本ランキングトップの好記録で優勝しました。1988年以来26年ぶりの優勝です。私が大学1年生の時です。男子4×400mリレーも準優勝し、私にとっては非常に嬉しい大会となりました。

今日はバトンパスの話をしましょう。4×100mリレーのバトンパスワークには大きく2つの渡し方があります。
1つはオーバーハンドパス(ダウンスイング・エクスチェンジ 図上)もう1つはアンダーハンドパス(アップスイング・エクスチェンジ 図下)です。

バトンパスワークはいかに、スピードを落とさず次の走者にバトンを渡していくかが重要です。バトンパスでは、図の矢印のようにバトンを手渡すことで距離を稼ぐことができます。この距離のことを「利得距離」といいます。
図を見ていただくとわかると思いますが、オーバーハンドパスの方が利得距離を大きく獲得することができます。アンダーハンドパスと比べて50から60センチは変わってくるでしょうか。これがレースでは3か所ありますのでオーバーハンドパスはかなりの距離を稼ぐことができます。
しかし、オーバーハンドパスは、バトンを受け取る人が後方に高く手を上げなければなりません。しかも、その手は揺れてはいけません。固定していないと渡す人がうまく渡せなくなってしまうからです。この手を上げた状態を長く続けると走りに大きな影響が出てしまいます。一方、アンダーハンドパスは手を高く上げないため通常の走り始めと同じようにスムースに加速することができます。
ですから、オーバーハンドパスは渡す人が近づいてきてパスをするとき、なるべく一瞬で渡すようにします。これがかなり練習を積まないと難しいのです。失敗が多い原因の1つです。

アンダーハンドパスは渡す人は近づいて少し並走するような形で確実に渡します。パスが完了する位置も失敗の危険性が低いので遠くに設定できます。遠くに設定できるとバトンを受ける人は加速する時間が増えることになります。
我々は「オーバーは点で、アンダーは線で渡す」と表現しています。

となると、アンダーハンドパスは渡す人と受ける人のスピードに差があると、遅い方にスピードを合わせなければなくなってしまいます。つまり走力差があるとアンダーハンドパスは効果が発揮されなくなってしまうのです。
男子の日本代表チームはアンダーハンドパスを採用しています。これは4人が皆、高いスピードで走れるからなのです。

他にもアンダーハンドパスを採用している理由はあります。かなり専門的になってしまうのでこれくらいにしておきますが、つまりはオーバーハンドパスにもアンダーハンドパスにも優れたところ、欠点があるわけです。どちらを推奨するというわけではありません。
しかし、おそらくはオーバーハンドパスを究極に極めればオーバーハンドパスの方が速いであろうとは思います。

先日のアジア大会で中国が日本の持つアジア記録を更新するアジア初の37秒台をマークしました。中国はオーバーハンドパスを採用しています。
日本代表チームは2008年北京オリンピックで史上初の銅メダルを獲得し、世界大会決勝の常連国となっていますが、これからはもっと厳しい戦いになることが予想されます。バトンパスワークについて再考する時期に来ているのかもしれません。
とにかく、みなさんのリレーチームはそのチームの状況を分析し、それに合わせてどのパスワークが理想的なのかをよく考えて選択してください。

もし、もっと速いパスワークを発明されましたら、ぜひご一報ください!!

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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