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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.54「手を握る」

9月3日(水)、日本テレビのZIP!という番組のHATENAVIというコーナーに出演しました。出演するのは2回目で、前回は「お父さんはなぜ運動会で転んでしまうのか」というテーマでした。ハマスポでも紹介しましたね。

今回の疑問は、速く「走る時はグー?パー?」というものでした。

番組での調査では、「グー」が104人で「パー」が46人。「グー」の方が多かったそうです。

さて、皆さんはいかがですか?「グー」派?「パー」派?

正解は、「握らない」です。つまり「グー」ではない。

かと言って「パー」も正解とはハッキリと言えません。

この依頼を日本テレビからされたとき、私は「強く握りません」と回答しました。しかし、テレビ的には「グーか、パーか」ですので、どちらかと言えば「パーですね」と放送ではなっていると思います。オンエアは見られませんでした。

「グー」はなぜダメなのか。

ぐっと握る「グー」をすると力が入ってしまい、肩が上がりやすくなります。また、動きが制限されやすく、余計なところに力が入ることで疲労しやすくなってしまいます。

短距離のアスリートでは強く握る「グー」で走る人は、ほとんどいないと言ってよいでしょう。軽く握る「グー」はいると思います。

撮影の時、9名程の被験者がいましたが、強く握る「グー」派が2人いました。かなり力んでいて肩が上がり、前でしか腕が振れません。ストライドも小さくなっていました。

そこで「パー」にして走ったところ走りのフォームは明らかによくなりました。ただし、タイムはあまり変わりませんでした。

タイムが変わらなかったのは距離が短かったことが原因だと思います。おそらく距離があればかなりタイムも変わってきたと思います。

強く握らないことで腕の力みが減り、大きく腕を振れるようになりました。それに伴ってストライドも大きくなり、スムーズで綺麗な走りとなりました。

短い距離ではそれほど効果はないかもしれませんが、距離が長くなればなるほど「グー」ではない方がよいと思われます。

私はといいますと、握らないのはもちろん、手首も「ブラー」っとしていました。リラックス状態です。

疾走時の腕振りについて、研究はあまりされていません。脚と比較して、地面に対する力の作用が小さく、疾走への貢献度が低いことがその要因でしょう。

その少ない研究の中で、神戸大学の前田正登先生が腕振りについて興味深い実験(2010)をしています。前田先生は、被験者の腕を後ろに固定し、腕の振れない状況をつくって疾走させ、その影響を分析しました。その結果、疾走速度は低下しました。ピッチ(脚の回転)、ストライドともに低下しています。腕が振れないことで疾走速度は下がってしまうのです。

つまり、強く握って「グー」をすると腕の振りが制限されますからうまく腕が振れず、疾走速度に影響が出てしまうということです。


うちの学生です。「パー」ではないですよね

これはランニングも同じです。

「肩に力が入ってしまいリラックスして走れない」という方は手首から先を脱力することで改善するかもしれません。試してみてください。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

ブログ

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