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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.41「北部九州総体」

7月28日から北部九州総体が開催され、陸上競技の開催地、大分県に行ってきました。この大会は、全国高校総合体育大会[通称インターハイ]で、陸上競技会場は大分スポーツ公園の大分銀行ドームです。大分銀行ドームは4万人を収容できる大きなスタジアムで、屋根が開閉できます。おそらく日本で唯一の開閉式屋根を持つ陸上競技場だと思います。開催期間中は屋根を開けていましたが、日影が多く、風通しもよいので快適な競技場です。しかも、フィールド内も強風が吹くことはほとんどなく、トラックの反発が良い優れた競技場です。

2019年3月に完成する予定の新国立競技場も開閉式の屋根を採用する予定ですね。2020年東京オリンピックが決まれば新国立競技場がメイン会場となります。9月7日(土)アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されるIOC総会で開催地が決定します。決まってほしいですね。
さて、高校総体ですが、今年の大会はレベルの高い大会となりました。大会新記録が男子で7種目、うち高校新記録1種目(110mH)、女子でも4種目に大会新記録、うち1種目が高校新(4×100mリレー)でした。男子の高校新記録は神奈川県相洋高校の古谷拓夢選手で、まだ高校2年生です。来年も楽しみですね。
横浜市の選手は苦戦していました。3位以内はわずかに1人、棒高跳の岡本拓巳選手(横浜清風高校)です。岡本選手は、7月にウクライナ・ドネツクで開催された世界ユース選手権にも出場し5m00を跳んで5位入賞を果たした日本期待のホープです。岡本選手も古谷選手と同じく、まだ2年生です。来年も大注目です。
この棒高跳、使用する棒の材質、堅さ、太さ、長さは決められていません。つまり、10mの長さの棒を使っても良いのです。ただし、「扱えるならば」です。10mのポール(棒)を持って走り、その棒を曲げて、立てることは困難で、そんなに長いポールを使うことはできません。世界の男子トップ選手では5m前後の長さのポールを使用して6m前後を跳んでいます。
また、現在のポールは反発に優れたグラスファイバーやカーボンという材質でできていますが、堅く、太くすることで反発を大きくすることが可能です。しかし、堅いポールを曲げるには高い技術力に加え、筋力が要りますし、走るスピードも必要になります。堅くて反発のあるポールを使えて、なおかつ高いところを持つことができる選手(“ボウルダー”といいます)が強い選手ということになります。
高いところを持つことができるということがどういう意味があるかというと、例えば5mのところを握っていて(グリップ位置、“握り”といいます)、持っている高さと同じ所まで身体を持っていければ単純に5mを跳べることになります。優れたボウルダーは“握り”より高いところを跳ぶことができます。“握り”の位置からどれだけ高く跳べたかという距離を“抜き”といい、世界陸上に出場するような選手は1mから1m20くらいの“抜き”の技術を持っています(男子)。初心者では握りより低いところを跳ぶ選手もいます。
つまり、5mの“握り”で“抜き“が1mなら6mを跳べるということになります。しかし、5mの高さを握りポールを操るのは難しいですし、1m以上抜くのも大変な技術が必要です。

現在6mボウルダーは世界に12名います。世界記録はセルゲイ・ブブカ選手(ウクライナ)の6m14cmです。日本記録は澤野大地選手(富士通)で5m83cmです。日本人選手は5m前後の長さのポールを使用しています。長さ、堅さなどはその時の状況(調子や風など)によって変えています。ですから、技術を上げること、筋力を上げること、また走力を上げることで有利なポールを使いこなすことができるようになり、そのポールが使えるようになれば記録も伸びていくことになるのです。
もしくは、グラスファイバーやカーボンより優れた材質のポールが開発されるかですね。今のところそのような情報はありませんが…。
今夏、モスクワで開催される世界選手権には山本聖途選手(中京大)、澤野選手、荻田大樹選手(ミズノ)の3人の日本人選手が出場します。3名出場できるということは彼らにとって有利に働くはずです。ポールは技術も大事なのですが、風の影響を大きく受けるため、大会時の風の状況がどうなっているかが大変重要です。どのくらいの強さで、どの方向に吹いているかを知ることは非常に重要で、良い風を選んで跳ぶことがパフォーマンスに大きく影響します。地上と6m近い高さの位置の風の状況も違ったりしてきます。その情報を間近で3名が教えあうことができるのです。これは3名にとって必ず有利に働くと思います。テレビで3名のチームプレイが観ることができると思います。注目してみてください。
私もモスクワに出向きます。TBSの解説をする予定です。担当は短距離とハードルで、今回のコラムとあまり関係がありませんが、このコラムで世界陸上の棒高跳の観方が少しご理解いただければ嬉しいです。
次回のコラムは世界選手権の記事になりそうです。どんな記録が出るのか楽しみです。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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