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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.19「競歩」

 10月は毎年開催されている国体の季節です。今年も行ってきました。今年の開催地は山口県です。陸上競技は、山口県山口市で湯田温泉の近くに競技場があります。湯田温泉は私にとっては大変懐かしい場所です。初めてのインターハイ出場がこの地でした。前にも書きましたが400mに出場し最下位に終わり玉砕されて横浜に帰ってきたことを思い出します。しかし、ここが私のスタートだったような気もします。

 さて、今回の国体では陸上競技で神奈川勢は総合第9位という結果でした。すべての競技の総合では、天皇杯6位、皇后杯8位で昨年の千葉国体の天皇杯3位、皇后杯4位を下回ってしまいました。残念でしたね。
 陸上競技では、優勝者1名、準優勝者6名とかなり活躍したのではないかと思います。唯一の優勝は高校男子5000m競歩、横浜高校の松永大介君です。松永君は8月の高校総体(インターハイ)で失格(DSQ:disqualifiedといいます)という残念な結果でしたので見事リベンジ達成です。おめでとう!
 この競歩という競技、皆さんご存知でしたか?陸上競技は「走跳投」だけでなく「歩」もあるんです。競歩という競技があることは聞いたことがあっても詳しくご存じの方は少ないのではないでしょうか。「歩く」と言っても皆さんがイメージするウォーキングとは少し違います。競技なのであたりまえですが、かなりの速さで歩きます。
 では、記録を見てみましょう。男子50km競歩の世界記録は、デニス・ニジェゴロドフ(ロシア)が 2008年に記録した3時間34分14秒です。50kmを約3時間半で歩いてしまうんです。マラソンの42.195kmに換算すると3時間強になります。50 kmという距離は横浜から東海道線で鴨宮の手前くらいまで行ってしまいます。日本記録は長谷川体育施設の山崎勇喜君が持つ3時間40分12秒。これも速い。女子は50kmはありませんが、20kmで世界記録が1時間25分08秒(ベラ・ソコロワ)、日本記録が1時間28分03秒(渕瀬真寿美)です。以上の記録はロードの記録です。
 トラックですと、男子3000m競歩 10分47秒11(G・デ・ベネディチス)、男子5000m競歩 18分05秒49(H・ギュラ)で女子5000m競歩が 20分02秒60(ジリアン・オサリバン)です。男子の5000m競歩の世界記録は1000mを平均で3分37秒、100mを21秒7平均で「歩く」のです。不動産の物件で表示される「駅から徒歩○分」というのは1分で80m(時速4.8km)だそうですが、「徒歩10分」という物件は800mな訳ですから競歩では3分かかりません。女子5000m競歩はキロ約4分ですから驚異的な速さですね。

 この競歩、歩き方(歩形といいます)にはもちろんルールがあります。図1を見てください。これが正しい歩形です。


図1

ロス・オブ・コンタクト(Loss of Contact) 図2
「両方の足が同時に地面を離れてはならない」
→どちらかの脚が必ず地面についています。空中に浮いている局面があればそれは「走り」です。遊脚期といいます。


図2

ベント・ニー(Bent Knee) 図3
「着地から身体の真下に来るまで膝を伸ばしておかなければならない」


図3

 コース上には審判員(トラックレース6名、ロードレース9名)がいて、この2つの違反があるとイエロー・パドルという注意の札を提示します(図の横にある“波”と“<”の書いてある札です)。明らかに違反となるとレッドカード(警告)となり、レッドカードの累積3枚で失格となります。国体で優勝した松永君はこのレッドカード3枚を受け、高校総体は失格してしまったのです。

 この競歩という競技、一体どこにルーツがあるのでしょうか。少し調べましたが、明確にはわかっていないようです。12世紀イギリスで、使用人が主人の馬車の後ろを歩いて追いかけていたというのが始まりなどといわれていますが、競技としては1763年に7マイル(11.3km)の競歩が賭けレースで行われたという記録が残っています。同じ年にはヘイグという人物が100マイル(161km)を23時間15分で歩いたという記録もあります。1780年には50マイル(80km)競歩、1785年には1日40マイルを6日間続けるレースなどヨーロッパを中心に長距離を歩くレースが盛んに行われていたようです。1801年には、なんと1000マイル(1609km)を42日間かけて歩いたという記録も残っています(陸上競技のルーツをさぐる 文理閣より)。この競歩、オリンピックでは、第5回ストックホルム大会(1912年)から正式に採用されました。この時は男子だけでした。女子が始まったのは最近で第27回シドニー大会(2000年)からです。

 ウォーキングに関しては、以前ハマスポで紹介しましたが、ウォーキングの速度は、通常のウォーキングで60〜70m/分、エクササイズ・ウォーキングが90〜100m/分と言われています。エクササイズ・ウォーキングを時速にすると5.4から6kmですが、ウォーキングも時速7.5kmを超えると走るよりも消費カロリーが大きくなると言われています(Margarita 1938)。時速7.5km以上では、同じスピードでも速く歩いた方がきついのです。ウォーキングの速度を125m/分にすると時速7.5kmです。このくらいになると走った方が楽という訳です。
 男子100mで現在も日本記録(10秒00)を持っている伊東浩司氏は、競歩をトレーニングに取り入れ成功しました。ちゃんと歩けない人はちゃんと走れません。ウォーキング愛好家のみならずジョガーの皆様も、いつか競歩の歩形に挑戦してみてはいかがでしょうか。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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