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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.18「テグ世界陸上」

韓国テグで開催された世界陸上に行ってきました。時差もありませんし、テレビでご覧になった方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。私は、日本陸上競技連盟の男子短距離コーチとして大会に参加してきました。
今回日本は男子100mに選手を派遣できませんでした。1983年ヘルシンキ大会以来の派遣なしで私も責任を感じます。さて、今回の男子100mでは、9秒58の世界記録を持つジャマイカのウサイン・ボルト選手がフライングで一発失格となりました。世界陸上では、このテグ大会からフライング一発失格が採用されました。ボルト選手が失格するとはだれも予測しなかったことでしょう。世界中が衝撃を受けたことでしょう。
では、もう一度その映像をご覧ください。動画は国際陸上競技連盟(IAAF)の映像です。

IAAFのYouTube動画

明らかなフライングですよね。誰もがわかる。少し遅れて出ても余裕で優勝したでしょうに…。記録を狙っていたのかもしれませんね。
フライングはフォルス・スタートとも言われますが、号砲よりも0.1秒より早くスタートをしたらフライングとみなされるIAAFが決めたルールです。かつてフライングは「1人2回やったら失格」、これが「誰かがフライングして2回目は誰がフライングしても失格」に代わり、今回から「誰でも一発失格」になりました。水泳も一発失格ですね。このルールについての是非はコメントを控えます。とりあえず我々は与えられたルールの中で戦っていくしかないので。ただし少しだけ問題定義をしつつ。
この動画のような明らかなフライングは別として、皆さんはフライングをどのように検出しているかご存知ですか?実はいくつかの検出方法があります。
1. 審判の目
2. フライング判定装置1 圧力
3. フライング判定装置2 加速度
4. フライング判定装置3 ビデオ
5. その他
今回はおそらく2です。ただし、先ほど書いたように目で見ても明らかですから審判も反応しているはずです。世界陸上やオリンピックなどの大きな大会は、スターティングブロックの後ろにコードが伸びているのが確認できると思います。このコードはスターティングブロックに取り付けられた圧力計や加速度計の反応をコンピューターに情報として伝えています。コンピューターはその情報から0.1秒より早く反応していないかを判断し、瞬時にフライングの合図を鳴らします(自動)。


スターティングブロック

ビデオの場合は、信号機のような青と赤のLEDが選手の後ろなどに置いてあり、スターターのスタートの合図と同時に青から赤にパッとランプが移動します。日本選手権はこの方式だったと思います。フライングは審判の目で判断します。そして微妙なフライングがあった時、選手やコーチがフライングしていないとの指摘に対し、このビデオ映像を使ってランプが赤に変わって0.1秒よりも早くその選手が動いていないかを確認します。このときの映像はハイスピードです。今のところこれが一番いいかなと思っています。
問題はいろいろあります。圧力や加速度にしてもどのくらいの圧や加速度なのかは明確ではありませんし、0.1秒の根拠も理解できますが、もしかしたら0.099くらいで反応できる人間も出てくるかもしれません。
カウントダウンにした方がいいとか、手が離れたらなどと提案する方もいらっしゃいますが、カウントダウンはおそらくヤマをはれてしまいます、手が離れたらですと脚を微妙に動かしながらのスタートができてしまいます。静止しなければいけませんので。何が最善かは難しいですね。あまり書くと怒られそうなのでこの辺にしておきます。
この反応、全身反応時間ともいいますが、光や音に対して身体が反応する時間を言います。先に書いたとおり短距離のトップアスリートは0.1秒から0.2秒で反応します。年齢を重ねると反応時間は長くなっていきます。下の図(olsen 1991)は全身反応の平均値の加齢による推移図です。


全身反応の平均値の加齢による推移図

直接的に比較はできませんが、50歳を超えると0.5秒くらいかかってしまうのです。年齢を重ねると転びそうになってもパッと脚が出なかったり、何か飛んできてもすぐに避けられなかったりしてしまいます。怖いですね。気をつけましょう。
大切なのは反応時間の遅れを自覚すること。また、定期的に少しでも運動していたほうが反応時間を短縮できるようです。

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

ブログ

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