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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.17「合宿」

 8月3日から7日まで岩手県北上市で開催された高校総体に行ってきました。陸上競技の横浜市勢は優勝こそありませんでしたが、男子では8種競技で希望が丘高校の岸君、4×400mリレーで桐蔭学園が3位に入り、女子でも川和高校の福里さんが800mで3位に入賞しました。神奈川勢では、女子で相洋高校が4×100mリレーと4×400mリレーの両リレーに優勝するなど神奈川県勢の活躍が目立ちました。高校総体の陸上競技では学校対抗とともに都道府県別対抗があります。この都道府県対抗で神奈川は女子が埼玉に次ぐ総合2位に入りました。男子は11位でした。

 さて、7日競技終了後に岩手から帰ってきましたが、8日から今度は山梨県での合宿に入りました。現在も合宿中です。この合宿は8月27日から韓国・テグで開催される世界陸上の男子短距離チームの強化合宿です。合宿地は山梨県の河口湖付近で都心より多少涼しく、集中してトレーニングを消化できます。男子の日本代表が集結し主にリレーの練習や強化練習を行います。ここで数日間合宿を張り、最終調整は東京を赤羽で行いそこからテグに向かいます。

 前にもお話ししたと思いますが、日本代表の大会や合宿の情報は表に出すことは禁じられています。公開できる範囲で紹介していきたいと思います。


写真は左から土江君、私、朝原君の3人で世界陸上男子短距離チームのコーチをしています。
土江君はアテネオリンピックリレー4位、朝原君は言わずと知れた北京銀メダリストです。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、陸上競技男子短距離は2008年北京オリンピックで、4×100mリレーで銅メダルを獲得しています。日本の4×100mリレーは世界で活躍できる種目で、2009年のドイツ・ベルリンの世界陸上でも4位入賞を果たしています。世界陸上では2001年から2009年まで連続入賞をしており、決勝進出常連国となっています。ですから、今年のテグを含め、2010年ロンドンオリンピックでも再びメダルを獲得すべくトレーニングを積んでいるわけです。私は2007年の大阪世界陸上の前から男子短距離の責任者に就いています。今回はこの日本リレーの強さについて少しお話しましょう。

 4×100mリレーという4継(よんけい)ともいわれ4人が100mずつ走り、400mをバトンでつないでいきます。100m世界記録保持者ウサイン・ボルト率いるジャマイカが、37秒10という世界記録を保持しています。世界的にはジャマイカとアメリカが突出しています。両国とも4人全員を9秒台の選手でそろえることができます。ジャマイカは、ボルト9秒58、パウエル9秒72、その後は9秒78、80と驚異的な速さのスプリンターでチームを組んでいます。3番手国はいくつかあり、3番手国が日本のライバルチームとなります。3番手国にはイギリスやフランス、トリニダートトバコ、ブラジルなどがあり、いずれも9秒台の選手が含まれています。しかし、日本は9秒台の選手はいません。北京の時の最高は朝原氏の10秒02です。9秒台をそろえるチームに勝つためにはバトンパスワークを磨くしかありません。技術、技で勝負なのです。

 日本のバトンパスワークはアンダーハンドパスを採用しています。皆さんがイメージするバトンパスは上からバトンをわたすオーバーハンド方式と思います。多くの国がオーバーハンドパスを採用しており、スタンダードなパスワークです。日本は2001年からアンダーハンドパスを取り入れました。しかし、実はアンダーハンドパスは新しいパス技術ではありません。かつてアンダーハンドパスが主流だった時期もあります。1964年東京オリンピックの映像を見ると多くの国がアンダーハンドパスを行っています。いつからかオーバーハンドに変わったのだと思います。


アンダーハンドパス

 オーバーハンドパス、アンダーハンドパスそれぞれに良い点、悪い点があり、どちらが有利かということにはいろいろな見解があります。アンダーハンドパスは、腕をあまり高く上げないので疾走と同じような腕の振りができ、バトンを受け取る人が加速しやすいというところに利点があります。オーバーハンドパスは腕を高く上げることで加速しづらく、減速もしやすくなってしまいます。腕を高くあげるのでバトンを渡す人と受け取る人の距離が遠くなり、利得距離といわれ距離が得となるのですが、その分失敗も多くなります。アンダーハンドパスは渡す人と、受け取る人の距離は近く得をする距離は小さいのですが、近い分渡しやすく、失敗が少ないのです。より安全で確実しかも速いのが日本のアンダーハンドパスなのです。今年から日本女子チームもアンダーハンドパスを採用し、5月川崎で日本記録を樹立しました。日本代表のアンダーハンドパスは世界でも注目されています。

 世界陸上のリレーは9月4日です。ぜひ日本の4×100mリレーチームが世界に挑む華麗なバトンパスワークに注目してください!!

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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