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SPORTSよこはま 2009 JUNE Vol.13

スポーツ医科学センター 健康な生活を過ごすためのアドバイス
─ 気をつけたい生活習慣 ─

横浜市スポーツ医科学センター顧問●村山 正博(内科医)

 私の「健康な生活を過ごすためのアドバイス」は、まず「健康な生活とは何か」を考え、そのために「生活習慣の何にどのように気をつけるか」を考えることから始めるということです。そして何より重要なことは、他の人に頼る受身の姿勢でなく自分で工夫しながら実践する姿勢であり、それはまさに「スポーツの精神」であることを強調したいと思います。

健康な生活とは

  わが国は世界一の長寿国です。2007年の「平均寿命」は女性85.9歳で23年連続の世界一、男性は79.2歳で世界第三位でした。終戦直後の平均寿命が女性54.0歳、男性50.1歳でしたから、この60年あまりでかなり変わりました。寿命が伸びること自体はおめでたいことですが、重要なことは単に命を永らえるだけでなく、「元気」に自力で動いて生活できることです。いつまで健康で生きられるかを表すのが「健康寿命」です。日本人の健康寿命は男性72.4歳、女性77.7歳と報告されていますから、平均寿命からこれを引いた男性6.8年、女性8.2年の間は、不健康な状態で生きるということになります。そして最終的に「要介護」になりますが、要介護の原因は男性では脳血管障害が最も多くおよそ40%、女性では20%程度、女性では次いで転倒骨折と痴呆が多くなります。そのようにならないのが「健康な生活」であり、それを予防しようとすることが「健康づくり」になるわけです。

生活習慣病とは

  「喫煙」、「過食」、「アルコールの飲み過ぎ」、「過剰の食塩摂取」、「運動不足」、「過労」、「ストレス」などは生活習慣として改善できる部分が多いので、これらが原因で起こる病気を「生活習慣病」と呼んでいます。生活習慣病には、脳卒中、心臓病、肝臓病、腎臓病、高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、癌などが含まれます。これらのうち高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などは初めのうちは無症状のことが多く、病気としての認識が低いかも知れませんが、これらは心臓病や脳卒中などの明らかな症状が出る前の段階に位置付けられ、危険因子と呼ばれています。
  危険因子はその数が多いほど動脈硬化が進行しますが、例えば心筋梗塞になる危険を日本人について調査した成績によれば、高脂血症だけある人が心筋梗塞になる危険を1とすると、その他に高血圧が加わると2.6倍、さらに糖尿病が加わると5.9倍、高血圧、糖尿病、喫煙の3つが加わると10.8倍にもなると報告されています。また、歳を取ってから「寝たきり」になることの危険を数字で表すと、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙それぞれ一つについて、それのない人の3倍になります。しかも二つあれば6倍でなくて3×3で9倍になるといわれています。もし四つあれば計算上は81倍にもなります。このようにこれらが重なると加速度的に動脈硬化を促進させるので、これらの組み合わせをメタボリック・シンドロームと呼ぶようになったのです。

スポーツの目的は

  生活習慣病の予防・改善のためにスポーツが有効であるということ自体は正しいのですが、ややもすれば「スポーツはやればやるほど健康になれる」、「熱心にスポーツをやっていれば長生きできる」と信じ込み、汗水たらして運動をしている人も少なくないように思います。中には、自分の体力以上の激しい運動を行い、突然死などの思わぬ事故が発生したというような新聞報道も目にします。薬でもその適応や用量を間違えたり、飲み方が多過ぎれば副作用が出るように、運動もその適応や方法を間違えたり、度が過ぎたりすればその効果が得られません。
  スポーツによる事故を予防し、その効果を期待するためには、まず運動を始める前に「自分は何のためにスポーツをするのか」ということを決めるべきです。学生時代の運動部活動や競技選手のスポーツは勝敗を争うためのもので、それと健康増進や病気の回復のための運動とは必ずしも両立しません。このことを頭に入れた上で、「何のためにスポーツをするか」について以下のどれに該当するかを決めていただきたいと思います。①競技力をつける、 ②単に楽しめば良い、 ③特別な病気はないが、その予防のために行う、 ④すでに何かの病気や検査上の異常があるのでその改善のために行う。
  それぞれスポーツを行う目的が違いますから、「こんなスポーツがいい」と一律に述べることはできませんが、専門的診察や検査の上で運動メニューを決めてもらうのが理想的です。横浜市スポーツ医科学センター(港北区・日産スタジアム内)では、医学的検査と体力測定の実施結果で個々の人に適した運動メニューなどを作成・提供する「スポーツ版人間ドック(スポーツプログラムサービス:SPS)」を行なっておりますので、ぜひご利用ください。

具体的目標の数字を知ろう

  「健康づくり」のためのスポーツという目的が決まれば、その目標となる数字を知ることが実践の手掛かりになります。スポーツ競技のタイムを目標にするのと同じ精神です。一つの例として、生活習慣における「カロリーの出入り」の数字を挙げておきます。人間が生きていくためにはエネルギー源としての食事を摂り、それを使って活動しますが、エネルギーが不足すれば痩せていくことになり、また栄養分を摂りすぎれば余分は脂肪として貯蔵されます。そこで、まず一日どのくらいのエネルギーを必要とするかを自分の活動レベルから算出します。およその目安は次のとおりです。生活活動の程度を軽・中・重に分ければ、体重1Kg当たりの必要カロリーは軽:25〜30Kcal、中:30〜35Kcal、重:40Kcal以上です。例えば、あまり活動的でない生活をしている体重60Kgの人なら60×25(30)=1,500(1,800)Kcal、肉体労働や激しいスポーツをやっている60Kgの人なら60×40以上=2,400Kcal以上となります。これだけのエネルギーを食事から摂ること、すなわちカロリーの「入り」が必要になります。
  次にカロリーの「出」について、いくつかの動作や活動のエネルギー消費量を知ってください。糖尿病の人は良くご存知でしょうが、カロリーは80Kcal(牛乳1本分)を1単位として計算します。1単位を消費する運動は、「ゆっくりした散歩30分、もう少し速い歩行20分、ジョッギング10分、ランニング5分」程度です。ちなみに、一万歩のウォーキングはおよそ300Kcalです。といってもなかなかピンとこなければ、缶ビールの小さいサイズ(350ml)は140Kcal、大きいサイズ(500ml)は200Kcalと考えれば、小さい缶ビールを一本飲めば1時間近く歩かないと収支が合わなくなるという計算です。このようにいろいろな運動(カロリーの出)と食事(カロリーの入り)について計算する習慣をつけていただきたいのです。
  なかには減量を目的として短時間、汗をかくような激しい運動を行なっている人を見受けますが、これは誤った方法です。運動の最初のうちはエネルギー源として使われる糖分と脂肪の比は6対4程度で、20分後に5対5となり、その後、主に脂肪が使われます。「減らしたいのは糖ではなく脂肪」なのですから、脂肪の燃焼には、長時間運動を行なうことが理に適っている訳です。減量の目的であれば、どの程度の運動がどの程度の脂肪を燃やすかを知るのが良いと思います。脂肪1gが燃えると9Kcalのエネルギーが出ますから、9Kcalの運動を行って1gの減量ができるということです。30分くらいの散歩でおよそ80Kcalの消費ですが、脂肪の減量はおよそ9g程度にしかなりません。もう少し計算を続けますと、
1時間半のウォーキングで240Kcalですから、脂肪にしておよそ27g、これを毎日続けて1ヵ月で710g、1Kgも痩せない計算なります。まして、ウォーキングの後、缶ビール500mlを飲んでしまえば、これが200Kcalですからカロリー上はほぼ帳消しになるということになります。運動による減量の難しさですが、このような計算を考えながらスポーツを実践していただきたいと思い、例を出しました。
  他にもスポーツの実践には多くの目標数字がありますが、紙面の都合で詳しく述べることができません。一つ一つ学習して憶え、効果を見ながら実践することはスポーツトレーニングと同じであることを述べて稿を終わりたいと思います。

スポーツ医科学センター 健康な生活を過ごすためのアドバイス
─ 気をつけたい生活習慣 ─

横浜市スポーツ医科学センター顧問●村山 正博(内科医)

 私の「健康な生活を過ごすためのアドバイス」は、まず「健康な生活とは何か」を考え、そのために「生活習慣の何にどのように気をつけるか」を考えることから始めるということです。そして何より重要なことは、他の人に頼る受身の姿勢でなく自分で工夫しながら実践する姿勢であり、それはまさに「スポーツの精神」であることを強調したいと思います。

健康な生活とは

  わが国は世界一の長寿国です。2007年の「平均寿命」は女性85.9歳で23年連続の世界一、男性は79.2歳で世界第三位でした。終戦直後の平均寿命が女性54.0歳、男性50.1歳でしたから、この60年あまりでかなり変わりました。寿命が伸びること自体はおめでたいことですが、重要なことは単に命を永らえるだけでなく、「元気」に自力で動いて生活できることです。いつまで健康で生きられるかを表すのが「健康寿命」です。日本人の健康寿命は男性72.4歳、女性77.7歳と報告されていますから、平均寿命からこれを引いた男性6.8年、女性8.2年の間は、不健康な状態で生きるということになります。そして最終的に「要介護」になりますが、要介護の原因は男性では脳血管障害が最も多くおよそ40%、女性では20%程度、女性では次いで転倒骨折と痴呆が多くなります。そのようにならないのが「健康な生活」であり、それを予防しようとすることが「健康づくり」になるわけです。

生活習慣病とは

  「喫煙」、「過食」、「アルコールの飲み過ぎ」、「過剰の食塩摂取」、「運動不足」、「過労」、「ストレス」などは生活習慣として改善できる部分が多いので、これらが原因で起こる病気を「生活習慣病」と呼んでいます。生活習慣病には、脳卒中、心臓病、肝臓病、腎臓病、高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、癌などが含まれます。これらのうち高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などは初めのうちは無症状のことが多く、病気としての認識が低いかも知れませんが、これらは心臓病や脳卒中などの明らかな症状が出る前の段階に位置付けられ、危険因子と呼ばれています。
  危険因子はその数が多いほど動脈硬化が進行しますが、例えば心筋梗塞になる危険を日本人について調査した成績によれば、高脂血症だけある人が心筋梗塞になる危険を1とすると、その他に高血圧が加わると2.6倍、さらに糖尿病が加わると5.9倍、高血圧、糖尿病、喫煙の3つが加わると10.8倍にもなると報告されています。また、歳を取ってから「寝たきり」になることの危険を数字で表すと、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙それぞれ一つについて、それのない人の3倍になります。しかも二つあれば6倍でなくて3×3で9倍になるといわれています。もし四つあれば計算上は81倍にもなります。このようにこれらが重なると加速度的に動脈硬化を促進させるので、これらの組み合わせをメタボリック・シンドロームと呼ぶようになったのです。

スポーツの目的は

  生活習慣病の予防・改善のためにスポーツが有効であるということ自体は正しいのですが、ややもすれば「スポーツはやればやるほど健康になれる」、「熱心にスポーツをやっていれば長生きできる」と信じ込み、汗水たらして運動をしている人も少なくないように思います。中には、自分の体力以上の激しい運動を行い、突然死などの思わぬ事故が発生したというような新聞報道も目にします。薬でもその適応や用量を間違えたり、飲み方が多過ぎれば副作用が出るように、運動もその適応や方法を間違えたり、度が過ぎたりすればその効果が得られません。
  スポーツによる事故を予防し、その効果を期待するためには、まず運動を始める前に「自分は何のためにスポーツをするのか」ということを決めるべきです。学生時代の運動部活動や競技選手のスポーツは勝敗を争うためのもので、それと健康増進や病気の回復のための運動とは必ずしも両立しません。このことを頭に入れた上で、「何のためにスポーツをするか」について以下のどれに該当するかを決めていただきたいと思います。①競技力をつける、 ②単に楽しめば良い、 ③特別な病気はないが、その予防のために行う、 ④すでに何かの病気や検査上の異常があるのでその改善のために行う。
  それぞれスポーツを行う目的が違いますから、「こんなスポーツがいい」と一律に述べることはできませんが、専門的診察や検査の上で運動メニューを決めてもらうのが理想的です。横浜市スポーツ医科学センター(港北区・日産スタジアム内)では、医学的検査と体力測定の実施結果で個々の人に適した運動メニューなどを作成・提供する「スポーツ版人間ドック(スポーツプログラムサービス:SPS)」を行なっておりますので、ぜひご利用ください。

具体的目標の数字を知ろう

  「健康づくり」のためのスポーツという目的が決まれば、その目標となる数字を知ることが実践の手掛かりになります。スポーツ競技のタイムを目標にするのと同じ精神です。一つの例として、生活習慣における「カロリーの出入り」の数字を挙げておきます。人間が生きていくためにはエネルギー源としての食事を摂り、それを使って活動しますが、エネルギーが不足すれば痩せていくことになり、また栄養分を摂りすぎれば余分は脂肪として貯蔵されます。そこで、まず一日どのくらいのエネルギーを必要とするかを自分の活動レベルから算出します。およその目安は次のとおりです。生活活動の程度を軽・中・重に分ければ、体重1Kg当たりの必要カロリーは軽:25〜30Kcal、中:30〜35Kcal、重:40Kcal以上です。例えば、あまり活動的でない生活をしている体重60Kgの人なら60×25(30)=1,500(1,800)Kcal、肉体労働や激しいスポーツをやっている60Kgの人なら60×40以上=2,400Kcal以上となります。これだけのエネルギーを食事から摂ること、すなわちカロリーの「入り」が必要になります。
  次にカロリーの「出」について、いくつかの動作や活動のエネルギー消費量を知ってください。糖尿病の人は良くご存知でしょうが、カロリーは80Kcal(牛乳1本分)を1単位として計算します。1単位を消費する運動は、「ゆっくりした散歩30分、もう少し速い歩行20分、ジョッギング10分、ランニング5分」程度です。ちなみに、一万歩のウォーキングはおよそ300Kcalです。といってもなかなかピンとこなければ、缶ビールの小さいサイズ(350ml)は140Kcal、大きいサイズ(500ml)は200Kcalと考えれば、小さい缶ビールを一本飲めば1時間近く歩かないと収支が合わなくなるという計算です。このようにいろいろな運動(カロリーの出)と食事(カロリーの入り)について計算する習慣をつけていただきたいのです。
  なかには減量を目的として短時間、汗をかくような激しい運動を行なっている人を見受けますが、これは誤った方法です。運動の最初のうちはエネルギー源として使われる糖分と脂肪の比は6対4程度で、20分後に5対5となり、その後、主に脂肪が使われます。「減らしたいのは糖ではなく脂肪」なのですから、脂肪の燃焼には、長時間運動を行なうことが理に適っている訳です。減量の目的であれば、どの程度の運動がどの程度の脂肪を燃やすかを知るのが良いと思います。脂肪1gが燃えると9Kcalのエネルギーが出ますから、9Kcalの運動を行って1gの減量ができるということです。30分くらいの散歩でおよそ80Kcalの消費ですが、脂肪の減量はおよそ9g程度にしかなりません。もう少し計算を続けますと、
1時間半のウォーキングで240Kcalですから、脂肪にしておよそ27g、これを毎日続けて1ヵ月で710g、1Kgも痩せない計算なります。まして、ウォーキングの後、缶ビール500mlを飲んでしまえば、これが200Kcalですからカロリー上はほぼ帳消しになるということになります。運動による減量の難しさですが、このような計算を考えながらスポーツを実践していただきたいと思い、例を出しました。
  他にもスポーツの実践には多くの目標数字がありますが、紙面の都合で詳しく述べることができません。一つ一つ学習して憶え、効果を見ながら実践することはスポーツトレーニングと同じであることを述べて稿を終わりたいと思います。