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SPORTSよこはま 2009 APRIL Vol.12

スポーツ医科学センター 健康な高齢生活を迎えるには─子どもとスポーツ─

横浜市スポーツ医科学センター長●中嶋 寛之

 超高齢社会を迎えるにあたって、高齢者を中心とした社会保障のあり方が極めて重要な課題となっています。とくに医療や介護に関しては幼少時からのスポーツを始めとした身体運動を生活習慣のなかに組み込んでおくことが大切で、健全な身体の発育・発達のためのみならず、健康な高齢生活を迎えるためにも欠かせません。
  本誌の昨年2月号では、スポーツ医科学の立場からの提言として、現在高齢者に行われている転倒骨折予防や介護予防は、発育期の段階でスポーツ活動や運動を通じて安全な転び方や身のこなしとして習得しておくのが望ましいことを訴えてきました。また、横浜市体育協会の仕事としても体力づくりや競技スポーツは、将来の老後を見据えての骨粗鬆症や老年症候群の予防につながるものであるべきことを述べてきました。したがって結論的には超高齢社会では「スポーツ」を軸として各年代や省庁にまたがる政策が必要となってきます。
  今回は、高齢社会に備えて子どものスポーツ活動がなぜ大切かその視点についてやや詳しく説明してみたいと思います。
グラフ スキャモンの発育曲線  われわれの発育過程において、一口に発育期といっても人間の身体の部分の成長には、時期によりその程度に大きな違いがあります。図は有名なスキャモンの発育曲線で、0歳から20歳までの身体のそれぞれの部分の発育の割合を示したものです。例えば図で示す神経の要素は12歳でほぼ100%近くの成長となっています。われわれの子どものころを振り返ってみればわかるように、子どものころに習得した運動技術に関する感覚は大人になっても忘れていないことに気がつくでしょう。自転車の乗り方、水泳での水の捕まえ方などがそれに相当します。高齢になってからの転倒骨折予防が大きな課題になっていますが、神経系統の発達する子どものころに安全な転び方や身のこなしをマット運動や柔道の受身などのスポーツ活動を通じて会得しておくことは、将来貴重な財産になるといえます。そのほか「走る」「投げる」「打つ」「蹴る」など基本的なスポーツの動作は神経系統の育まれる発育期に良い指導を受けられることが望ましいわけです。とくに小学後期の女子は飛んだり跳ねたり鉄棒にぶら下がったり一生を通じて最もアクティブな時期であります。この時期を逃さずこれらの基本的な動作を指導してあげられたらその後のスポーツ人生は大きな楽しみと喜びに満ちたものとなりスポーツ嫌いをなくしてくれるでしょう。若い時の適切なスポーツ活動は老後に備えての骨や筋肉を蓄えることにつながり、結果的に高齢女性に多い骨粗鬆症(骨が弱く折れやすくなる)を減らすことにもなるからです。
  一つの考え方として、スポーツ活動を続けられること自体が健康であるともいえます。しかしここにはいくつかの落とし穴があります。
  たとえば女性の長距離選手など過度のスポーツ活動では無月経など結果的に骨粗鬆の状態ひいては疲労骨折を招くことがあります。これはスポーツに限らず誤ったダイエットのし過ぎが骨粗鬆症予備軍を生むのと同様であります。また人によっては怪我や痛みを生じやすい身体つきの人がいますが、若い時の脚腰の怪我は高齢になってから後遺症となって影響を及ぼすこともあるので予防や完治が望ましいといえます。運動器を扱う整形外科では骨格や関節の並び具合、さらに筋肉のつき方などをチェックすればあらかじめその人にとってリスクの多いスポーツ活動は予知できます。いわゆるスポーツ整形外科的メディカルチェックによる怪我の予防がそれで当医科学センターなどでも可能です。
  織田信長の時代の人生50年であれば起こらなかったような高齢になってからの膝や腰の痛みが人生80年の今日では大変増加しているのも現実です。個々の問題については今後の機会に説明させていただきますが、健康な高齢生活を過ごすには、子ども時代から適切な時期に適切な指導のもとにスポーツを含めた身体運動を安全に行うことがすすめられます。
  振り返ってみれば私自身は、小学生のころの三角ベースや町内会の子ども野球、中学生では野球やハンドボール、高校生となってからは器械体操、大学では柔道、さらに医学部では山登りとスキーなど学生時代を通してさまざまなスポーツを経験してきました。種々のスポーツ種目を試みたのはいずれもあまりものにならなかったということでもありますが、結果的にはバランスのとれた身体づくりにつながったのではないかとも結論付けられます。なかでも印象強かったのが体操と柔道で、ここで得られた身のこなし体験が骨折などの大きな怪我の予防に役立ったと思っています。スキーでは崖から落ちたり・川に飛び込んだりしたこともありますが不思議と怪我はしなかったし、これまでテニス・ソフトボール・サッカーなどの転倒場面では反射的に受け身動作がとれるので怪我は擦り傷程度に終わっています。その後のスポーツ医学の知識と照らし合わせて前述のような子どものときのスポーツ体験の必要性を唱える理由にもなっているわけです。しかし骨折の既往はないものの後に手術的な治療が必要となる膝や腰の後遺症には悩まされたこともありますが、これらの点に関しても別の機会に述べてみたいと思います。
  一方、何故それほどスポーツ活動が好きだったかというと、子どものころから短距離走が得意で運動会でいつも好い思いをしていたからでしょう。今にして思えば、筋組成が速筋タイプだったからと思われ、逆に長距離走ではいつも後塵を拝していました。運動会の種目は運営上からか遅筋タイプの子どもには不利な構成になっており、事実日本のトップレベルのマラソン選手の体験談でも能力を認められだしたのは中学・高校ごろからであると述べています。
  私自身の経験でも、中高年になってからのジョギングブームのなかで、かなり入れ込んで走っては見ましたが、マラソンでは4時間を切るのがようやくでした。
  われわれの身体を動かす筋肉には短距離向きの速筋と長距離向きの遅筋とが個人個人一定の比率で混ざっており、走るのに必要な筋肉の組成でどちらの比率が高いかによって能力が分かれてきます。現代のスポーツ科学の知見からすれば当然の結果でありますが、当時の子どもの頭ではそのような理解ができませんでした。
  競技力に関したスポーツ科学の知識が解明されてきた現在、教育の現場にもこれらの知識を応用することによって、子どもたちの能力もそれぞれ引き出すことが可能となり生涯にわたり個性にあったスポーツライフを楽しむ素地をつくることができることでしょう。
  今回は、健康な高齢生活を迎えるために、スポーツ損傷の予防に役立つ医学の立場と競技力に関連したスポーツ科学の立場から、子どものスポーツ活動のあり方について私見を述べさせていただきました。適切な時期に適切なカリキュラムと良い指導が子どもたちに提供されることを切に願うものであります。

子どものイラスト

スポーツ医科学センター 健康な高齢生活を迎えるには─子どもとスポーツ─

横浜市スポーツ医科学センター長●中嶋 寛之

 超高齢社会を迎えるにあたって、高齢者を中心とした社会保障のあり方が極めて重要な課題となっています。とくに医療や介護に関しては幼少時からのスポーツを始めとした身体運動を生活習慣のなかに組み込んでおくことが大切で、健全な身体の発育・発達のためのみならず、健康な高齢生活を迎えるためにも欠かせません。
  本誌の昨年2月号では、スポーツ医科学の立場からの提言として、現在高齢者に行われている転倒骨折予防や介護予防は、発育期の段階でスポーツ活動や運動を通じて安全な転び方や身のこなしとして習得しておくのが望ましいことを訴えてきました。また、横浜市体育協会の仕事としても体力づくりや競技スポーツは、将来の老後を見据えての骨粗鬆症や老年症候群の予防につながるものであるべきことを述べてきました。したがって結論的には超高齢社会では「スポーツ」を軸として各年代や省庁にまたがる政策が必要となってきます。
  今回は、高齢社会に備えて子どものスポーツ活動がなぜ大切かその視点についてやや詳しく説明してみたいと思います。
グラフ スキャモンの発育曲線  われわれの発育過程において、一口に発育期といっても人間の身体の部分の成長には、時期によりその程度に大きな違いがあります。図は有名なスキャモンの発育曲線で、0歳から20歳までの身体のそれぞれの部分の発育の割合を示したものです。例えば図で示す神経の要素は12歳でほぼ100%近くの成長となっています。われわれの子どものころを振り返ってみればわかるように、子どものころに習得した運動技術に関する感覚は大人になっても忘れていないことに気がつくでしょう。自転車の乗り方、水泳での水の捕まえ方などがそれに相当します。高齢になってからの転倒骨折予防が大きな課題になっていますが、神経系統の発達する子どものころに安全な転び方や身のこなしをマット運動や柔道の受身などのスポーツ活動を通じて会得しておくことは、将来貴重な財産になるといえます。そのほか「走る」「投げる」「打つ」「蹴る」など基本的なスポーツの動作は神経系統の育まれる発育期に良い指導を受けられることが望ましいわけです。とくに小学後期の女子は飛んだり跳ねたり鉄棒にぶら下がったり一生を通じて最もアクティブな時期であります。この時期を逃さずこれらの基本的な動作を指導してあげられたらその後のスポーツ人生は大きな楽しみと喜びに満ちたものとなりスポーツ嫌いをなくしてくれるでしょう。若い時の適切なスポーツ活動は老後に備えての骨や筋肉を蓄えることにつながり、結果的に高齢女性に多い骨粗鬆症(骨が弱く折れやすくなる)を減らすことにもなるからです。
  一つの考え方として、スポーツ活動を続けられること自体が健康であるともいえます。しかしここにはいくつかの落とし穴があります。
  たとえば女性の長距離選手など過度のスポーツ活動では無月経など結果的に骨粗鬆の状態ひいては疲労骨折を招くことがあります。これはスポーツに限らず誤ったダイエットのし過ぎが骨粗鬆症予備軍を生むのと同様であります。また人によっては怪我や痛みを生じやすい身体つきの人がいますが、若い時の脚腰の怪我は高齢になってから後遺症となって影響を及ぼすこともあるので予防や完治が望ましいといえます。運動器を扱う整形外科では骨格や関節の並び具合、さらに筋肉のつき方などをチェックすればあらかじめその人にとってリスクの多いスポーツ活動は予知できます。いわゆるスポーツ整形外科的メディカルチェックによる怪我の予防がそれで当医科学センターなどでも可能です。
  織田信長の時代の人生50年であれば起こらなかったような高齢になってからの膝や腰の痛みが人生80年の今日では大変増加しているのも現実です。個々の問題については今後の機会に説明させていただきますが、健康な高齢生活を過ごすには、子ども時代から適切な時期に適切な指導のもとにスポーツを含めた身体運動を安全に行うことがすすめられます。
  振り返ってみれば私自身は、小学生のころの三角ベースや町内会の子ども野球、中学生では野球やハンドボール、高校生となってからは器械体操、大学では柔道、さらに医学部では山登りとスキーなど学生時代を通してさまざまなスポーツを経験してきました。種々のスポーツ種目を試みたのはいずれもあまりものにならなかったということでもありますが、結果的にはバランスのとれた身体づくりにつながったのではないかとも結論付けられます。なかでも印象強かったのが体操と柔道で、ここで得られた身のこなし体験が骨折などの大きな怪我の予防に役立ったと思っています。スキーでは崖から落ちたり・川に飛び込んだりしたこともありますが不思議と怪我はしなかったし、これまでテニス・ソフトボール・サッカーなどの転倒場面では反射的に受け身動作がとれるので怪我は擦り傷程度に終わっています。その後のスポーツ医学の知識と照らし合わせて前述のような子どものときのスポーツ体験の必要性を唱える理由にもなっているわけです。しかし骨折の既往はないものの後に手術的な治療が必要となる膝や腰の後遺症には悩まされたこともありますが、これらの点に関しても別の機会に述べてみたいと思います。
  一方、何故それほどスポーツ活動が好きだったかというと、子どものころから短距離走が得意で運動会でいつも好い思いをしていたからでしょう。今にして思えば、筋組成が速筋タイプだったからと思われ、逆に長距離走ではいつも後塵を拝していました。運動会の種目は運営上からか遅筋タイプの子どもには不利な構成になっており、事実日本のトップレベルのマラソン選手の体験談でも能力を認められだしたのは中学・高校ごろからであると述べています。
  私自身の経験でも、中高年になってからのジョギングブームのなかで、かなり入れ込んで走っては見ましたが、マラソンでは4時間を切るのがようやくでした。
  われわれの身体を動かす筋肉には短距離向きの速筋と長距離向きの遅筋とが個人個人一定の比率で混ざっており、走るのに必要な筋肉の組成でどちらの比率が高いかによって能力が分かれてきます。現代のスポーツ科学の知見からすれば当然の結果でありますが、当時の子どもの頭ではそのような理解ができませんでした。
  競技力に関したスポーツ科学の知識が解明されてきた現在、教育の現場にもこれらの知識を応用することによって、子どもたちの能力もそれぞれ引き出すことが可能となり生涯にわたり個性にあったスポーツライフを楽しむ素地をつくることができることでしょう。
  今回は、健康な高齢生活を迎えるために、スポーツ損傷の予防に役立つ医学の立場と競技力に関連したスポーツ科学の立場から、子どものスポーツ活動のあり方について私見を述べさせていただきました。適切な時期に適切なカリキュラムと良い指導が子どもたちに提供されることを切に願うものであります。

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