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スポーツ医科学センター
健康診断結果の見方と注意点
●文/村山正博(横浜市スポーツ医科学センター顧問)

 ひとくちに健康診断(健診)といっても子どもの頃の乳児健診、成人健診、老人健診、さらに労働安全衛生法によって義務づけられている勤労者のための一般健康診断、電離放射線・化学薬品・騒音など特殊環境の影響がある職場で働く人のための特殊健康診断、地域で受ける主婦健診など様々なものがあります。また、特殊な検査が含まれるので検診という言葉が使われている癌検診なども健康診断です。横浜市スポーツ医学センターで行っている「スポーツ版人間ドック(SPS)」も適切なスポーツの種類や程度を決めるための健康診断の一つです。健康診断の結果を理解するためには、まず自分が受ける健康診断がどういう目的で行なわれているものかを理解する必要があります。
癌検診やSPSのような健康診断は目的がはっきりしていますので、受けた結果が理解し易いと思いますが、職場や地域で受けることの多い「一般健康診断」というものは、なかなか判り難いのではないでしょうか。検査には時間と費用がかかりますので、その効率を考えた上で最小限の検査を選んで行なうというのが「一般」の意味です。言い換えれば、健康の基本となる一般的事項をチェックする検査ということです。そこで健康の基本とは何かということになります。私は、健康の基本は「日常生活に大きな苦痛がない」ことと「将来に大きな支障をもたらすような異常がないこと」だと思います。日常生活は年齢、職業、環境、置かれた社会的立場によって違うので、健康の基本も違うといって良いと思います。例えば、子どもにとって将来、立派な大人になるための健康であり、成人にとっては毎日、仕事が出来、さらに将来、寿命に関係のある病気にならないための健康であり、高齢者にとっては毎日を楽しんで暮らせるための健康であると思っています。そのような基本からそれに適した検査をするのが一般健康診断ではないでしょうか。本誌を読まれる方は、スポーツ愛好者の成人から高齢者が多いと思いますので、ここではその方々のための健康診断について述べたいと思います。

一般健康診断の内容
 先に述べたような背景から一般健康診断の目的は、多くの人がかかり易い病気の源を早く見つけることになります。これは一昔前では肺結核でしたが、高齢化社会の現代では動脈硬化と癌が最大の目標になります。
 動脈硬化は全身の細胞に栄養を送るパイプである動脈に傷害を起こし、血液の流れが悪くなる病気です。さらに悪くなると血栓が出来て流れが遮断されると心筋梗塞や脳梗塞のような重大な病気に発展します。その他、最大の幹線である大動脈では大動脈瘤や大動脈解離のような生命に関わる病気を起こし、また小さな動脈にこれが起こると腎臓を初めとする内臓に障害を起こします。
 それではこの動脈硬化を起こす原因は何かということになりますが、それが一般健康診断で検査する項目にいくつも入っています。
 一つは高血圧ですが、日本人では高血圧は動脈硬化の最大の危険因子です。診察時に測定する血圧は随時血圧といいますが、正常値は130/85(ミリ水銀柱)です。少し前までは140/95といっていましたが、今は130/85以上は高血圧の疑いがあることを十分、承知して下さい。もう一つは肥満です。肥満は身体に過剰に脂肪が蓄積した状態ですが、BMI(Body Mass Index)=体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}といって肥満の度合いを表す指標があります。これが25以上になれば肥満と判定されます。その他にも普通の体型でウエストのサイズが男性85cm、女性90cmも肥満の目安として使われています。
 健康診断は採血だけやればいいように思われるかもしれませんが、診察はとても重要なのです。自分の日頃の体調を健康診断の際、報告して専門的検査が必要かどうかチェックしてもらうのが一般健康診断の目的です。はっきりとした症状があれば既に病院を訪れているでしょうが、ほんのちょっとした症状から病気の先駆けを見つけるのが一般健康診断です。一般健康診断の第一幕を診察とすれば、そこで得られた手掛かりを裏付け、また気が付かない別の切り口から第二幕を開こうとするのが血液や尿の検査と考えて下さい。
高血圧の診断基準
血液検査の読み方1:血液学的検査

一般健康診断の意味がお判り頂けたと思いますので、次に一般健康診断上、広く行なわれている検査の意味を述べたいと思います。
 一般健康診断で行なう血液検査は主に血液学的検査と血液生化学検査に分かれます。採血後、血液が直ぐ固まってしまわないための薬を入れて、採血した試験管に放置すると二層に分かれます。下に沈殿した赤い部分と上澄みの黄色い部分です。沈殿部分の96%は赤血球ですから、これが少なければ貧血ということになります。沈殿部分が全体に占める比率をヘマトクリット(Hct)値といいますが、正常値は男性:39-50%、女性:36-45%です。
 沈殿部分には赤血球の他に白血球や血小板のような血球成分が含まれていますが、これの分析が血液学的検査です。  上澄み部分には栄養成分、老廃物、電解質、色々な臓器から出てくる酵素やホルモンなどの成分が含まれますが、これを生化学的手法で分析するので生化学検査といいます。それぞれの検査の異常が見つかった場合、対応する病気の数は多く、また専門的になり過ぎるので詳しくは触れません。基本的な注意点についてのみ、以下に述べます。
 血液学的検査の柱は赤血球、白血球、血小板ですが、血球成分の96%は赤血球です。その数はおよそ男性:500万個(/mm3)、女性:450万個くらいが正常で、これが少ないのが貧血です。数だけでなく赤血球一個当たりの大きさや容積を測定して、それぞれの異常によってその原因を知ることが出来ます。また、赤血球には酸素を運ぶヘモグロビンが含まれていますので、数だけでなく赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)量が測定されます。正常値は男性:13-17(g/dl)、女性:12-15です。もしこれらの検査により貧血ありと判定されれば、次のステップとしてその原因を探ることになります。鉄分不足による鉄欠乏性貧血は、若い女性に多い状態ですが、中高年者で貧血の所見があれば、知らず知らずのうちに出血があること、その陰に癌が隠れていることを注意すべきです。
 次に白血球ですが、正常値は6,000-8,000/mm3ですが、正常の幅が広くこの数字に拘る必要はありません。重要なことは、その人の従来の値より減った、増えたという変化があればそれを異常として考えます。増える方は急性虫垂炎の診断でよく知られていますが、他のどの臓器でも細菌による急性感染症があれば増えます。ウイルス感染では増えません。
 実際には、数と同時に白血球の種類を見ます。好中球、リンパ球、好酸球、好塩基球、単球などの数の他、成熟していない幼弱な形のものがあるかどうかなどを判定します。幼弱なものが多くなれば、白血病を疑うことになります。血小板は血液凝固のために必要ですから、少なければ血液が固まり難い病気を疑います。正常は20-40万/mm3程度です。

血液検査の読み方2:血液生化学
 上澄み成分は血漿といいますが、その91%は水分です。残りの9%の中に蛋白質、ホルモン、電解質、糖質、脂質などが含まれています。
 自分の血液検査報告書を見た時、それぞれが何の検査であるかをまず理解して下さい。一つの柱は、動脈硬化の危険因子となる指標として脂質関連項目と血糖関連項目を整理します。前者は、総コレステロール(TC:220mg/dl未満)、HDLコレステロール(HDL:40-75mg/dl)、中性脂肪(TG:30-140mg/dl)が通常、測られます。TCの中身は、HDL(善玉コレステロール)とLDL(悪玉コレステロール)に分けられますが、LDLが増えると動脈の壁を傷つけ、動脈硬化の原因になります。HDLはLDLを取り去って肝臓に運ぶ役割を持つので善玉コレステロールと呼ばれます。
 また、TGもHDLを下げるので悪いとされています。一般にコレステロールは悪者扱いばかりされていますが、コレステロールは各種のホルモンの核となり、また細胞膜を作るのに必須であり、さらに胆汁の成分にも必要なものです。TGもエネルギー源として重要なものです。要は「過ぎたるは及ばざるが如し」の譬えのように必要以上に増えた場合、動脈硬化の原因になるということなのです。
 血糖関連項目は、空腹時血糖(110mg/dl未満)、とヘモグロビンA1c(6%未満)が測られていますが、後者は赤血球のヘモグロビンに付着した糖分で赤血球の寿命が2ヶ月ですから、過去2ヶ月の血糖平均値を示します。最近の食事習慣に影響されない長期の状況を見ることが出来るので、広く利用されております。
 さらに痛風の原因となる尿酸(7mg未満/dl)や腎臓機能を表すクレアチニン(0.5_1.2mg/dl)、栄養状態を知る総蛋白やアルブミン、各臓器の円滑な働きに必須の電解質(Na、K、Cl、Fe、Mgなど)、それぞれ異常があれば、どういう意味か医師に確認して頂きたいと思います。
 さらに一般健康診断項目上、最も広く利用されている検査項目にトランスアミナーゼがあります。肝臓内では栄養源となるアミノ酸分解・合成が行われていますが、そのために必要な酵素をトランスアミナーゼといいます。何らかの原因で細胞が壊れると細胞内の酵素が血液の中に流れ出してきます。これを血漿中において測定するのですが、それは細胞の破壊度を示す指標となります。酵素は臓器によって特異性がありますので、逸脱酵素の種類によってどの臓器が障害されているかを知ることが出来ます。例えば、報告書でよくご覧になるAST(以前はGOTと呼んでいました:正常値10-40単位)は肝臓、心臓、肺、筋肉、赤・白血球などに含まれるので、肝臓病(急・慢性肝炎、肝硬変、薬物性肝障害、アルコール性肝障害、脂肪肝など)、心筋梗塞、心筋炎、多発性筋炎などで上昇します。さらにALT(これもGPTと呼んでいました:正常値5-45)は、主に肝臓細胞に分布していますので特異的に肝臓障害の指標となります。その他、ガンマ(γ)-GPT(正常値50未満)は常習飲酒、胆汁うつ滞、薬剤(睡眠薬、抗精神薬、抗痙攣薬、抗てんかん薬)などで上昇します。常習飲酒者は、γ-GPTとともにAST、ALTが上昇してくれば、肝臓の障害がかなり進んで来たと注意されることになります。その他、ALP(胆道系酵素といわれ、胆道が閉塞された時に上昇する)、CK(心臓の筋肉や骨格筋から出るもので心筋梗塞や骨格筋破壊により上昇する。このどちらかはアイソザイムといってそれぞれの特異性を表す酵素を測れば識別出来る)、まだ他にもいくつもありますが、まずは逸脱酵素の意味を理解して頂ければ良いと思います。
主な血液検査の内容
項   目
検査の主な意味
血液一般検査 白血球数 細菌感染
赤血球数 貧血
ヘモグロビン
ヘマトクリット
血小板 止血作用
血液生化学検査 総蛋白 栄養状態、肝臓の働き
総ビリルビン 黄疸
ALP 胆道系の異常
γ−GTP アルコール性肝障害、脂肪肝
GOT(AST) 肝細胞の障害
GPT(ALT)
LDH 肝、肺、心臓などの障害
CPK 心臓や骨格筋の障害
中性脂肪 動脈硬化
総コレステロール
HDLコレステロール 善玉コレステロール
LDLコレステロール 悪玉コレステロール
血糖 糖尿病
ヘモグロビンA1c 2ヶ月間の血糖の変動
血清鉄 貧血の原因
クレアチニン 腎臓の障害
尿酸 痛風
CRP 感染や炎症
電解質(Na、K、Cl、Mgなど) 色々な臓器異常や全身的不調
おわりに
 以上、多くの人が受ける一般健康診断で行われる検査の意味を解説しましたが、これらはあくまでも基本的な最小限の検査ですから、ご自分の年齢、体調などから「何をみつけるか」の標的を明らかにして健診を受けて下さい。自覚症状がないからといって、毎年、同じ検査異常値を繰り返すばかりでは健診を受ける意味がありません。健康診断は受けることに意味があるのではなく、その対策を実行することです。健康診断で得られた手掛かりから、対策を実行に移すことこそ健康診断が狙っているところなのです。

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2006年5月25日作成 (財)横浜市体育協会
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