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スポーツ医科学センター
スポーツの中の上手な水分補給
●文/村山正博 (横浜市スポーツ医科学センター長)
イラスト 猛暑シーズンが到来しました。それとともに「夏バテ」で元気が出ないというような会話をよく耳にします。そもそも夏バテとは一体何でしょうか。広辞苑をひもといてみると、初版(昭和30年)には記載されておりませんでしたが、第2版(昭和44年)には「夏、暑気や食欲不振のために体がぐったりし、弱ること」とありました。古い辞書では「夏まけ」は出ておりますので、「夏バテ」は当時の新語なのでしょう。
 軽いものは「だるい」、「疲れる」、「気力が出ない」から、もう少し重くなると「眠れない」、「食欲がない」、「痩せる」にまで至ります。暑さなどの外的環境の変化は身体にとって不適なストレスになりますので、それに対して自律神経、ホルモン、免疫反応を総動員して新しい環境変化に対応しようとします。しかし、急に暑くなればこの調節が追いつきません。特に中高年者ではそのような適応反応が遅いのでこれらの調節機構がうまく働きません。これが夏バテの原因です。
 さて、夏バテ対策の1つに水分の上手な取り方があります。特に夏のスポーツでは大量の汗をかきますので、当然のこととして大量の水を飲みます。しかし、上手な水分補給法を知らないと夏バテをますます悪くすることになります。人間は水なしでは1週間から10日程度しか生きられないことは災害や遭難の時に話題になりますが、この暑い夏に改めて身体内の水分の働きから上手な水分の取り方まで考えてみようではありませんか。
身体内の水分と出し入れ
 男性では体重の60%、女性では55%程度が水分です。赤ちゃんは80%が水分だといわれています。体重の半分以上が水分で、残りが筋肉などの蛋白質と脂肪です。このように考えると身体の細胞は水の中に浮かんでいるようなもので、水分が不足すれば細胞の活動が出来なくなるのは当然です。
 水分の主な働きの第一は(1)栄養分などを身体のすみずみまで運ぶ役割です。血液は元来粘っこい成分ですから水分によってサラサラにして栄養素、ホルモン、老廃物などを円滑に運びます。次に(2)栄養分は水に溶けて吸収され、不要になった成分も水に溶けて排泄されます。また、消化に役立つ唾液や胃液などの分泌液も水分に溶けて薄められて働き易くなります。消化、吸収、代謝すべての働きは水があって初めて可能となります。さらに重要なことは(3)汗となって体温を一定に保つラジエターの働きをしていることです。冷房の効いた部屋に閉じこもっていると汗腺の機能が弱って発汗量が少ないので体温調節が悪くなり、夏バテになり易いことも知っておくといいと思います。
 それでは毎日、どの位の水分の出し入れがあるのでしょうか。排出する量から述べます。身体の大きさ、年齢、活動度によっても異なりますが、普通の生活では(1)尿として1.5リットル、(2)大便の中に100ミリリットル、(3)皮膚から600ミリリットル、呼吸する息の中から400ミリリットル(この2つは出入りを感ずることは特にないので不感蒸泄といいます)、併せて2.6リットルほどになります。そうするとこれに見合うだけ水分補給がなければなりませんが、(1)飲料水として1.5リットル、(2)食事の中で800ミリリットル、(3)身体の中でエネルギーを作るために各種の代謝から出来る水分が300ミリリットルくらいで出し入れの帳尻が合うことになります。必要な水分の多くを飲み水として口から取っているのですが、口から入った水分は胃を通過してその95%は小腸から残りの5%は大腸から吸収されます。発熱や下痢などの時には、その分、余計に水分を補給しなければならないことになる訳です。
汗の出方と成分
 さて、このような勘定からいえば、スポーツにより大量の汗をかいた時は、それだけの水分を補給しなければならないのは当然です。どの位の汗をかいたかを知るにはスポーツ前後の体重を測定すればおよその目安がつきます。いい汗のかき方は、体重のせいぜい2%、60kgの人なら1kg減少程度までにすべきです。3%の水分が失われると明らかに運動能力が低下し、5%も減るような汗をかけば生命の危険となる事態も起こり得ます。夏の激しいスポーツでは1時間に2リットルも汗をかきます。体内に常時流れている血液の量は4~5リットル程度ですからこれを補うために組織内の水分を総動員しなければならない事態が起こる訳です。
 さて、汗の成分を見ますとその九九%は水ですが、それ以外に塩(塩化ナトリウム)、微量の尿素や乳酸、カリウムや鉄分が含まれています。 汗に含まれる塩分は、最初0.05%程度ですが、段々水分が減ってその10倍くらいまで濃くなります。人の体液や血液の濃さがほぼ0.9%ですから、いかに水分が減ったことになるかおわかりいただけるでしょう。夏の暑い時期のスポーツでは1時間に2リットルも汗をかきます。何グラムという塩分が失われる計算になりますので、水だけでなく塩分を補給する意味がお判りいただけると思います。それだけでなく、血液が濃くなることにより固まり易くなり血栓を起こす原因となってしまいます。
熱中症
イラスト 大量に汗をかくことによって水分や塩分が不足し、色々な不調を起こします。これを熱中症といいます。これは大きく(1)熱疲労、(2)熱けいれん、(3)熱射病に分けます。熱疲労は脱水によって血液の量が減って全身の循環が悪くなるので血圧が下がり、ふらつき、めまい、倦怠感、頭痛、吐き気を起こします。熱けいれんは水分の補給だけを行なっていると塩分の不足が起こります。塩分は筋肉の収縮に必要なものですから、筋肉のけいれん、こむらがえりなどを起こします。熱射病は汗によって体温を下げる機構が破綻して、体温が下がらなくなり意識障害から死に至ることもある大変重篤な事態です。これらについては昨年の本誌8月号(Vol.164)に記載されておりますので参考にしてください。
スポーツ中の上手な水分補給法
イラスト 最後に以上のことからスポーツ中の水分補給の原則を述べたいと思います。
(1)まず、普段からスポーツをしている方はスポーツ前後に体重を測り、運動前の体重の1%以上減らないように気を つけてください。
(2)スポーツ中にのどが渇いたと感ずる時には既に脱水が始まっています。スポーツの種類や程度にもよりますが、15分位毎に100ミリリットル程度の水分を取るのがコツです。30分毎の200ミリリットルでもいいと思います。
(3)軽く汗をかく程度であれば最初は水分だけでもいいのですが、多く汗をかき出したら塩分の入った飲料を飲んでください。1kg以上も体重が減るような場合、塩分補給は必須となります。塩分の目安は0.1~0.2%(100ミリリットル中の食塩100~200mg、ナトリウムにして40~80mg)程度です。
(4)カロリー補給にも役立ちますから2~3%程度の糖分を含んだドリンクがいいと思います。かなり激しく動いている時は胃腸の働きも落ちていますから5%以上の濃い糖分は薄めて飲んだ方がいいと思います。
(5)冷たい飲み物は気持ちがいいのですが、冷たすぎると吸収が悪いので、5~15度がいいといわれています。
(6)汗をかいた後のビールを初めとするアルコール飲料は利尿作用があり、脱水の解消にはなりません。
 私は典型的中高年スポーツ愛好者ですが、丹沢の低い山や鶴見川のような川辺の散歩を好んでおります。その際は、500ミリリットルのペットボトルのスポーツドリンクやお茶を2本ザックに入れて出掛けております。
 いい汗をかき、いい水分補給を行なって夏バテを乗り切り、夏のスポーツを楽しみましょう。

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2005年7月25日作成 (財)横浜市体育協会
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