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スポーツ医科学センター
スポーツ医科学の現場から
●文/横浜市スポーツ医科学センター内科診療科 長嶋淳三
スポーツと熱中症

熱中症のメカニズム
 人間の体温は、外界の気候条件のある範囲内では一定に保たれています。これは、体内での熱産生と体表からの熱放散が、脳の体温調節中枢によって平衡を保っているからです。気温が高くなると、体温調節のために皮膚の血流が増大し、発汗が生じます。皮膚血流の増大によって体内から体表への熱の移動が容易になり、体表面からの輻射、伝導、対流により熱の放散が促進されますが、環境温が皮膚温に近くなるとその効率は悪くなり、皮膚温より高くなると、逆に外界から体内へ熱が移動することになります。したがって、高温下では汗の蒸散が唯一の放熱の手段となります。高温、多湿の環境では汗の蒸散も起こりにくくなり、容易にうつ熱(体内に熱が貯まること)が生じます。運動時には筋肉における熱産生により、体温は1から2度上昇しますので、熱中症の発生を助長することになります。
スポーツと熱中症
 高温に高湿度が加わった環境下でのスポーツでは、高体温・低ナトリウム血症などにより熱中症を起こす可能性が高くなります。スポーツによる熱中症事故は、適切に予防さえすれば防げるものです。しかしながら、予防に関する知識が十分に普及していないため、熱中症による死亡事故が毎年発生しています。
熱中症の分類
 熱中症は次の3型に分類されます。
1.熱疲労
 脱水状態により、末梢血流増大の需要に見合うだけの心拍出量が供給できないために、全身の脱力感、めまい、吐き気、失神などの状態を呈します。
2.熱けいれん
 血清ナトリウム濃度の低下を伴う脱水状態に対して、水分のみを供給した場合に起きます。筋肉のけいれん、こむらがえりなどの症状を起こすものです。
3.熱射病
 最も重症な状態で、適切な処置が行われなければ死亡することもあります。体温の上昇によって中枢機能に異常をきたした状態です。熱射病の病態は、中枢神経症状(体温の著明な上昇、意識障害、興奮状態、全身けいれんなど)、循環不全(脱水に伴う血漿量低下などにより血圧低下を起こす)、横紋筋融解(骨格筋細胞が破壊されて血液に溶け出すこと)に続発する腎不全、血管内皮障害(低血糖、高熱により血管の内側の細胞が傷つく)による播種性血管内凝固症候群(本来は血管内皮の働きにより、血管内では凝固しない血液が、凝固を起こしてしまう現象。最終的には凝固因子が枯渇してしまい、全身の出血に転ずる)です。さらに多臓器不全(肝臓、腎臓、心臓などが同時に傷害をうける)を合併して突然死を起こす場合もあります。
熱中症の治療
 熱中症の治療で重要なことは、とにかく体温を下げるように冷却すること、脱水に対して水分・塩分を十分に補給することです。
1.熱疲労の場合
 涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分を補給すれば通常は回復します。足を高くし、手足を抹消から中心部に向けてマッサージする事も有効です。吐き気や嘔吐などで水分補給できない場合は、病院で点滴を受ける必要があります。
2.熱けいれんの場合
 食塩を含んだ水分(スポーツドリンクなど)を補給すれば、通常はすみやかに回復します。
3.熱射病の場合
 死亡する可能性の高い緊急事態です。体を冷やしながら、集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ必要があります。いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが生命予後を左右するので、現場での処置が重要です。体温を下げるには、水をかけたり濡れタオルを当てて扇ぐ方法、頚、脇の下、足の付けねなど太い血管のある部分に氷やアイスパックをあてる方法が効果的です。
熱中症の予防方法
グラフ1.環境の把握
 熱中症の発生には、気温・湿度・風速・輻射熱(直射日光など)が関係します。同じ気温でも湿度が高いと危険性が高くなるので注意が必要です。また、運動強度が強いほど熱の発生も多くなり、熱中症の危険性も高まります。暑いところで無理に運動しても効果は上がりません。環境条件に応じた運動・休息・水分補給の計画が必要です。熱中症の事故は、急に暑くなったときに多く発生しています。梅雨の合間にとつぜん気温が上昇した日や梅雨明けの蒸し暑い日、合宿の第1日目などには事故が起こりやすいので注意が必要です。暑い環境での体温調節能力には、暑さへの馴れ(暑熱馴化)が関係しています。急に暑くなったときは運動を軽減し、暑さに馴れるまでの数日間は、短時間の軽い運動から徐々に増やしていくようにしましょう。
2.暑熱訓化を心がける
 実際のスポーツの現場では、環境条件や各個人のコンディションに合わせながら、発汗量や体温の上昇にも注意しつつ、暑さと運動に馴らしていくことが必要です。高温環境に対して訓化(7から10日間かけて運動強度、持続時間を徐々に増加させてトレーニングを行う)することが重要です。
3.水分と塩分のこまめな補給
 汗は体から熱を奪い、体温が上昇しすぎるのを防いでくれます。しかし、失われた水分を補わないと脱水になり、体温調節能力や運動能力が低下します。暑いときにはこまめに水分を補給しましょう。また、汗からは水と同時に塩分も失われますので、水分の補給には0.2%程度の食塩と5%程度の糖分を含んだものが適当です。いわゆる市販のスポーツドリンクの摂取が有効です。
4.体重測定による自己管理。
 毎朝起床時に体重をはかることは、疲労の回復状態や体調のチェックに役立ちます。また、運動前後に体重を計ると、運動中に汗などで失われた水分量が推測できます。体重の3%の水分が失われると、運動能力や体温調節機能が低下します。運動による体重減少が2%を超えないように、こまめに水分を補給することが有用です。
5.服装の注意
 皮膚からの熱の出入りには衣服が関係しています。熱中症予防のために、暑いときのスポーツ時の服装は軽装にし、素材も吸湿性や通気性のよいメッシュ素材のものなどにしましょう。屋外で直射日光がある場合には帽子の着用が有効です。また、防具をつけるスポーツでは、休憩中には衣服をゆるめてできるだけ熱を逃がし、円滑な体温調節を助ける工夫が必要です。
6.体調不良時は休む
 体調が悪いと体温調節機能も低下し、熱中症につながります。疲労、発熱、かぜ、下痢など、体調の悪いときには無理に運動しないようにしましょう。また、暑さへの耐性は個人によって大きな差がありますが、肥満の方や、高齢者は暑さに弱いのでとくに注意が必要です。
終わりに
横浜総合競技場2階の写真 横浜国際総合競技場の2階外周道路はスタンドの下に位置しているので直射日光が当たりません。1周約1kmであり、アクセスフリーで、真夏の散歩コースに適していますのでぜひご利用下さい。また東ゲート下の横浜市スポーツ医科学センターでは、体力測定・運動負荷心電図検査を中心としたSPS(スポーツ・プログラム・サービス)、横浜市成人・老人健診の他に、一般の保険診療も承っております。健康に不安のある方は、どうぞお気軽に受診してください。

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2004年7月25日作成 (財)横浜市体育協会
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