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    イベントレポート

センバツへの道【3】 高校野球 秋季関東大会は慶応が制す! 〜センバツに手が届いた日〜

by :千葉 陽子

 「執念が実った」。そうつぶやくと、慶応高校野球部上田誠監督は安堵した表情を浮かべた。11月1〜5日に行われた高校野球の第61回秋季関東大会(保土ヶ谷球場、横須賀スタジアム)で、慶応は49年ぶり2度目の優勝を果たした。そして来年3月のセンバツ(選抜高校野球大会)出場を確実にした。「甲子園に行きたい気持ちがものすごく強い」という選手たちが、魂をこめて戦った3日間をお伝えする。

秋の関東大会を制した慶応ナイン。試合を重ねるごとに、たくましく成長した

センバツの切符をつかんだ瞬間

 関東地区7県の代表15校(東京都を除く)がセンバツの切符をかけて臨む関東大会。今回開催県の神奈川から、県高校野球秋季大会の上位3校の慶応、日大藤沢、日大が出場した。慶応の初戦は11月3日、対するは今年の春季関東大会で優勝した強豪、木更津総合(千葉2位)だ。前日までに日大藤沢、日大が初戦で敗退。「神奈川の最後の砦。3校とも負けてしまったら申し訳ないと、すごい重圧があった」。この試合に勝てば準決勝進出、そして事実上センバツが決定する一戦に、上田監督もプレッシャーを感じていた。

 その大事なマウンドを託されたのは、慶応の揺るぎなきエース、白村明弘選手。しかし白村選手は1回表、押し出し四球で先制を許してしまう。バッテリーを組むキャプテン植田忠尚選手は後に、「突風が吹き荒れた」と表現したが、そんな波乱に満ちた幕開けだった。しかし慶応はここから真の強さを発揮する。「つなぐ野球」に徹した選手たちが打線で白村選手を援護、7—3で勝利。ゲームセットの瞬間、甲子園が見えた選手たちは思わず抱き合った。

試合前に気持ちを落ち着かせて…ピッチャー白村選手(左)、キャッチャー植田選手(右)のバッテリー

【強さの秘密1 〜 フォアザチーム】

 この試合3安打の活躍。5回表には追加点を許さないレフトからの好返球で、守備でも魅せた宮下創太選手。「上田監督から、自分たちは弱いのだから初心に戻って、しぶとく泥臭い野球をやっていこうと言われ、一致団結しました」。宮下選手自身も不調の時期を乗り越えて、大舞台で日頃の努力の成果を発揮した。「自分が打てない時も、守りで白村(選手)にレフトから近寄って声を掛けたり、こいつがグラウンドにいないとダメだな、と思われる存在になるようにしています」。個人の結果よりも、チームへ貢献する気持ちを強く持つ。これが慶応ナインだ。

タイトル獲得へ向かって、心ひとつに

 初戦に完投勝利を飾った白村選手だが、実は大きな爆弾を抱えて関東大会に臨んでいた。調子が悪かった腰の状態が悪化、マウンドに上がることが厳しい状況に陥ってしまったのだ。

 翌日の準決勝は前橋商業(群馬2位)との対戦。白村選手は遂に2回で降板、後を2人の1年生ピッチャーに託した。ここから慶応の新たな投手リレーが生まれる。「朝から顔が真っ青だった」と上田監督が明かした明大貴選手は3回を投げ4失点、続く瀧本健太朗選手は4回を無失点で抑えた。

 2人を援護したのは、キャッチャー植田選手の好リードと、こつこつと8点を積み重ねた打線。レフトの守備に回った白村選手も3安打を放ち、バッティングで貢献した。慶応は8−4で勝利、いよいよタイトルをかけて習志野(千葉1位)との決勝戦に挑む。

ベンチ入りできない選手たちもスタンドで共に戦う!(左) その思いを受け、グラウンドで頑張る!(右)

【強さの秘密2 〜 エースを救った後輩の力投】

 プレッシャーのかかる場面で、公式戦初登板を果たした1年生の瀧本選手。「緊張したら、もったいない」という思いで堂々としたピッチングを披露。県大会を白村選手一人で乗り切ったチームに、心強い存在が現れた。「自分の最大限の力を発揮させてくれたキャプテン(植田選手)にすごく感謝しています」と満面の笑顔。来春のセンバツでも勇姿を期待したい。「小学生の時は夢の世界だった甲子園が、現実になってきて嬉しい。もし投げる機会があったら、エースの白村さんを少しでも助けることができるように頑張りたい」と力を込めた。

いざ明治神宮大会へ

いよいよ決勝、緊張感が高まる(左) 対戦カードの張り紙は墨で手書き。美しい字!(右)

 「決勝戦に勝つことは、すごく大事な仕事」。そう選手に伝えた上田監督。前日、49年前に関東大会を制した当時の鶴岡監督から、「俺を超えろ」という言葉を受け、期するものがあった。

 決勝のマウンドに上がったのは明選手。いきなり5点のビハインドを背負ったが、「全然負ける気がしなかった」と一塁手の渡邊暁眞選手が振り返った通り、今の慶応ナインはどんなに点差が開いても「あきらめない気持ち」を失わない。7回表に一挙5点を奪い、遂に逆転に成功。9回裏のマウンドは腰痛を押して登板したエース白村選手が締め、9−6で勝利。タイトルを獲得した。この3日間で一回りたくましく成長した選手たちを、上田監督は頼もしそうに見つめた。

試合終了後、涙でしばらく立ち上がれなかった白村選手。野球選手として、さらに一歩成長を遂げた

 関東大会を制した慶応は、11月15日に開幕する明治神宮大会に関東地区代表で出場、秋の日本一を目指す。

勝てなかった時期を乗り越えて、上田監督の挑戦はこれからも続く(左) 3日間の熱戦を終えた選手たち(右)

【強さの秘密3 〜 野球部を支える縁の下の力持ち】

 「中学時代から野球部の追っかけをやっていて、受験して入部してきた」(上田監督・談)、マネージャーの杉林秀輝さん。決して表には出ないが、マネージャーの陰の尽力にチームは支えられている。「来年の春に向けて、目標を持ってやれることは大きい。今年のセンバツは初戦で敗れてしまったので、経験を生かしてじっくりチームを組み立てていきたい」。選手に負けないくらい熱いハートを持っている杉林さん。この冬はますます忙しくなりそうだ。

 一方、3塁側慶応スタンドでは、連日大応援団がグラウンドを見守った。応援指導部の3年生は初戦の木更津総合戦で引退。2年生の新キャプテン、青柳勇希さんは「先輩に勝ったという報告がしたくて、全力で応援しました」と充実した表情。「神宮を経由して甲子園に行くことが目標でした」。夢に近づき、来る大舞台に向けて余念が無い。

記録員として、選手と共にベンチで戦った杉林さん(左) 力強く応援団を引っ張った青柳さん(右)

 どんな時も明るく、楽しくプレーする気持ちを失わない。そんな選手たちに野球の神様もすっかりとりこになってしまったようだ。次の舞台は明治神宮野球場。2008年の締めくくりに、どんな感動の場面を見せてくれるのか楽しみでならない。

明治神宮大会も「エンジョイ・ベースボール」で突き進む!

※写真の転載は固くお断りします

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甲子園への一歩、慶応高校野球部新チームの挑戦

(前編)https://www.hamaspo.com/news/bmid_2008102113522600001

(後編)https://www.hamaspo.com/news/bmid_2008102810572200001