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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.48「30kmの壁」

2月は大雪でしたね。横浜でも30センチ近い積雪がありました。私は職場が山奥なので、70センチくらい積雪があり、2日間も閉じ込められてしまいました。

 大学のグランドです

各地で予定されていたマラソン大会やクロスカントリーなど多くの大会が積雪のため中止となってしまいました。2月9日に開催する予定であった市町村対抗「かながわ駅伝」も中止となってしまいました。残念です。
開催が心配された東京マラソンは2月23日(日)、絶好のコンディションの中、無事に開催されました。今回で第8回を数え、3万6千人以上のランナーが都心を駆け抜けました。

皆さんは横浜でも市民参加型のフルマラソンが開催されるのをご存知ですか。来年2015年3月15日(日)「横浜マラソン2015」が開催されることが決まっています。これは1981年から開催されている「横浜マラソン」を前身としています。今までの「横浜マラソン」はハーフマラソン、10 km、車いすの部が行われていました。2013年は10 kmのみ、2014年は開催されず、来年に「横浜マラソン2015」としてフルマラソンの大会となります。「横浜マラソン」からすると34回目となります。

横浜マラソンのホームページ http://www.yokohamamarathon.jp/2015/

「横浜マラソン2015」はパシフィコ横浜から県庁、税関、開港記念会館、横浜スタジアム、山下公園など横浜の主要観光名所を通り、南下して折り返してくるコースで、2万5千人規模の大会を目指しているそうです。磯子区あたりは首都高速道路を使用するという案も浮上しています。眺めも良いコースで聞いただけでも走りたくなりますね。
横浜国際女子マラソンとは別物でコースも異なります。

さて、以前「ランニングの生理」(vol.33)のお話をしましたが、今回はマラソンのエネルギー供給について少しお話ししましょう。マラソンには「30kmの壁」という言葉があります。35kmという説もありますが、皆さんも耳にしたことがあると思います。これは、30kmで急激にスピードダウンしてしまう現象を指します。この壁はもちろん疲労によるものですが、よくトレーニングされたトップアスリートにもこの現象はみられます。その要因はいくつかありますが、なかでも一番に言われているのがグリコーゲン(糖質)の貯蔵量の低下によるものです。

グリコーゲンの元は、糖質です。糖質は身体に入ると分解されグルコースとなって血中に流入します。そして、血中の糖の濃度が上がる余剰なグルコースは筋や肝臓などにグリコーゲンとして貯蔵されます。それでも余剰な場合は脂肪酸になってしまいます。このグルコースを筋や肝に取り込む働きをするのがインスリンです。グリコーゲンの貯蔵には限界があります。筋や肝臓には蓄えられる量に限りがあるからです。一方脂肪は臓器や皮下に大量にためることができます。
身体はこのグリコーゲンはなくなってしまうと非常に困ります。それには脳が関連しています。脳のエネルギー源はグルコース(ブドウ糖)のみしかありません。グリコーゲンは直接グルコース(ブドウ糖)に分解することができる物質です。このグリコーゲンがなくなることはイコール脳へのエネルギー源がなくなることで、身体はそれを第一に避けようとします。そこで脳は身体に疲労というシグナルを出します。「グリコーゲンをもう使用するな」と命令を下すわけです。このシグナルが出されるのがマラソンでいうと30kmくらいで、そこに「30kmの壁」が生まれ、脳からの指令によって強く急激な疲労感が襲ってくるのです。

身体は血中に約60kcal、肝(肝グリコーゲン)に約300から400kcal、筋(筋グリコーゲン)に約1000から1200kcalほどしか貯めておくことができません。トータルで約1500から1600kcalです。これは人にもよります。筋量の多い人は当然多く貯蔵できます。グリコーゲンローディングといって普段より多く貯める方法もあります。マラソンで42.195km走ると一流アスリートで2500 kcal以上消費します。そうです。足りません。そこで脂肪も使用することになります。グリコーゲンは脂肪よりエネルギー源として使用しやすいので、身体はまずグリコーゲンでエネルギーを供給しようとします。ある程度まで運動が進むと脂肪をたくさん使うようになります。グリコーゲンを使い切ってしまうとまずいのです。

身体が極度の低血糖状態に陥る症状のことを「ハンガーノック」と呼ぶことがあります。これはいろいろな原因によって、身体が強い低血糖状態となってしまう状態のことで、運動によるグリコーゲン枯渇でもこの「ハンガーノック」が起きることがあります。「ハンガーノック」の症状は、身体が思うように動かなくなることや思考能力の低下、手足のしびれ、めまいなどを引き起こし、危険な状態になることもあります。

マラソンでは水分補給とともにスペシャルドリンクがありますよね。スペシャルドリンクは水分の補給だけが目的ではありません。飲料には糖質が含まれていて糖質も補給しています。また、グリコーゲンを効率よく温存して走ることや多少脂肪をつけることもマラソンの後半の走りには有効とされています。

 北京オリンピックの時の土佐礼子さんのスペシャルドリンク

マラソン「30kmの壁」、少しは理解していただけたでしょうか。5000mや10000mでトップアスリートであった選手がマラソンに挑戦して30kmあたりで急に減速、なんていうときはこれらの原因が考えられます。マラソンはそれほど難しいのです。

皆さんもマラソンに挑戦するときや長い距離を走られるときは、エネルギーの消費を考えながら水分とともに糖質の補給も考えて、低血糖にならないよう注意してください。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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