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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.26「陸上競技のシーズンが始まりました」

 陸上競技のトラックシーズンが始まりました。私は、 4月終わりから 5月初旬にかけて開催された日本グランプリシリーズという大会に行ってきました。


織田記念陸上100m予選で山縣亮太君(慶應義塾大学)が10秒08をマーク(一番右)

 その中で、陸上競技の花形種目である男子 100mに好記録が出ました。 4月29日(日)に広島で開催された織田記念陸上で横浜市日吉在住の山縣亮太君(慶應義塾大学)が追い風にも恵まれましたが、10秒08をマーク、日本人選手の10秒00台は2009年以来で 3年ぶりのことです。
 現在の男子 100mの日本記録は伊東浩司氏(富士通 現甲南大学教員)が1998年にアジア大会で記録した10秒00で日本人は未だ 9秒台を記録していません。世界記録はジャマイカのウサイン・ボルト選手の 9秒58で2009年ドイツ・ベルリンの世界陸上で記録されました。
 人類が初めて10秒の壁を越えたのは1968年10月14日、アメリカのジム・ハインズ選手が記録しました( 9秒95)。しかし、この記録はメキシコオリンピックで記録された記録で高地の記録です。高地は空気抵抗が少ないので早く走ることが可能になります。メジャーリーグでも高地にあるスタジアムでは空気抵抗が少ないのでボールが良く飛ぶなんで言いますよね。平地の最初の 9秒台は1983年 5月14日に同じくアメリカのカール・ルイス選手が 9秒97を記録しています。
 そして現在 9秒台を記録した人類は80名を超えています(81名:2012年 5月現在)。そのうちのほとんどがネグロイド、いわゆる黒人種です。白人種であるコーカソイドではフランスのルメートル選手が2010年 7月10日に初めて 9秒台に突入しコーカソイド唯一の 9秒台選手となりました。現在ルメートル選手は 9秒92まで記録を伸ばしています。その他では、アドリジニと白人(父親がアイルランド人)の混血であるオーストラリアのパトリック・ジョンソン選手が2003年 5月に日本の水戸で 9秒93を記録しています。ルメートル選手とパトリック・ジョンソン選手の 2人以外はすべて黒人選手です。日本人は黄色人種(モンゴロイド)ですが、黄色人種の最高記録は日本記録の10秒00です。
 伊東氏は 9秒台を期待され、いつでも出せると言われていましたが、結局10秒00に終わってしまいました。本当に惜しかったのですが、実は他の日本人選手も 9秒台突入にあとわずかのところまで来ています。
 日本の歴代記録では—
 1位 10秒00 伊東浩司(富士通)          1998年
 2位 10秒02 朝原宣治(大阪ガス)         2001年
 3位 10秒03 末讀慎吾(ミズノ)          2003年
 4位 10秒07 江里口匡史(早稲田大学 現大阪ガス) 2009年
 5位 10秒08 山縣亮太(慶應義塾大学)       2012年
 6位 10秒09 塚原直貴(富士通)          2009年
 で、今回の山縣選手の記録は日本歴代 5位の記録です。この10秒 0台を記録した 6名の中で現役の選手は 4名います。この 4名が 9秒台に近いところにいるわけです。日本人で誰が10秒の壁を最初に破るのか、非常に楽しみですね。
 オリンピックの年は好記録が出ることで知られます。日本人初の 9秒台選手が今年誕生するかもしれません。注目です。

 さて、 100mのレースですが、オリンピックもあるということで少し解説してみましょう。 100m走は、スタートして加速して最高速度で走りますが、選手は 100mのゴールまで最高スピードで走っているわけではありません。 9秒台の選手でもゴール前最後の10mから15mは減速してしまいます。あのボルト選手も例外ではありません。
 レースの局面は大きく分けで図のように分けられます。図に示した距離は多少選手の特性によって前後しますが、トップ選手は大体図のような感じでレースが組み立てられています。
 ポイントはいかにトップスピード(最高速度)を高められるか。そしてそのトップスピードを維持できるかにあります。ボルト選手が世界記録( 9秒58)をマークした時のトップスピードは65m付近で秒速12.27mを記録したそうです。これは時速でいうと44.172kmで、もはや原付バイクですね。
 かつて人類の 100m走の記録の限界は 9秒60〜69であろうと予測されていました。今はその記録をすでに越えてしまいました。現在は 9秒40だとか 9秒20だとか言われていますが、ボルト選手のような予測不可能な選手が今後出てくるかもしれません。いったいどれくらいまで伸びるのかは私にも検討が付きません。
 今、世界最速人類は誰なのか、そのレースは 8月 3日イギリス・ロンドンで決まります。世界で 8人しか走ることが許されない決勝の舞台、私はナマでこの目で観てきます。
 皆さんもお見逃しなく!

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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