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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.8「第41回ジュニアオリンピック」

 日産スタジアムで第41回ジュニアオリンピック陸上競技大会があり、見に行ってきました。ジュニアオリンピックといっても国際大会ではなく、日本のジュニアの大会で今回で41回目を迎えます。本大会のジュニアは年齢によってA、B、Cのクラスに分けられています。
 A:14歳以上から15歳未満
 B:13歳以上から14歳未満
 C:12歳以上から13歳未満
 12歳というと小学生まで入るのでしょうが、プログラムをみるとほぼ中学生の大会となっています。この大会に出場するには、まず標準記録があります。結構高い標準記録です。ちなみにAクラスの男子100mの標準記録は10秒90です。女子は12秒30。速いです。Cクラスでも男子11秒80、女子12秒80となっています。本当に速いですね。私はたしか小学6年生の時13秒8だった記憶があります。
 それで、当然標準記録を突破する中学生は少ないので、標準記録突破に関わらずそれぞれの種目について各都道府県で1名は代表選手として出場できることになっています。ですから、最低でも一種目に47名は出場できるわけです。都道府県対抗でのリレーもありますので、先月コラムで紹介した国体のような雰囲気があります。
 出場選手のご家族も大挙して新横浜に集結しますから経済効果も抜群の大変盛り上がる大会です。また、このジュニアオリンピックという陸上競技大会から多くの日本代表選手も生まれています。
 この大会の3位までの選手は、現役の日本を代表するアスリートから表彰を受けます。憧れのアスリートに表彰してもらえるなんて中学生選手には良い経験となると思います。私も現役の時に何度か表彰式のプレゼンテーターをやりました。私の時は、400mHの為末 大君が200mを中学記録で優勝したときにプレゼンテーターをしました。残念ながら彼の表彰は私ではなかったのですが、すぐ横で彼のレースを見て「良い選手だな。大学はうちに来ないかな」なんて思っていました。ホントです。その後、本当に来てくれました。また、為末君のような選手が出てくることに期待したいですね。今回も1人、目をつけておきました(フフッ)。

 さて、中学生や小学生の大会となると決まって問題となるのが、その選手がその後活躍できたのか、早熟じゃないのか、などといった問題です。「中学チャンピオンはその後強くなれない」なんてよく言われたものです。本当でしょうか。たしかに早熟はあるとは思います。そりゃ人間ですから成長の早い遅いはあります。それを早熟でかたづけるのもいかがかと思います。早熟という言葉も定義が曖昧ですし。
 先の世界陸上メダリストの為末君や現100mの日本記録保持者の伊東浩司氏も中学チャンピオンです。彼らは中学生時代からシニアまでずっとトップアスリートであり続けています。ほかにも中学生時代から活躍している競技者はたくさんいます。彼らは早熟なのでしょうか。なぜシニアになっても活躍できたのでしょうか。
 私なりの考えを2つあげます。間違っているかもしれません。
 まず1つめ。このコラムの最初の号に書きましたが、ヒトの発育発達はスキャモンの発育発達曲線にあるように発育の序列があります。基本的にはこの序列を守ることが大切なのです。早熟の(と思われる)子は成長が他の子どもより進んでいるわけですから、体格差や体力差で勝ってしまうことが多々あります。この時早熟の子に全く歯が立たなかった子がその後、早熟の子を運動能力で簡単に追い越してしまうことがあります。自分より体力差のある、能力の高い子と運動することで神経系が良く活動し、有効に発達するためといわれています。早熟と思われる子は、身体が大きいことを主に使って勝たせるのではなく、神経系の動作をトレーニングに組み込みながらプランニングをしていかなければなりません。
 ですから、考えその①、体格、体力だけに頼ったトレーニングをしない。
 そして考えその②が重要です。その競技を好きにさせる。
 シニアで活躍している選手を見ていると、その競技が好きだし楽しんで競技をしているように思えます。時には悔しい経験をしたり、つらい経験をしたりということもあるかもしれませんが、基本的にはその競技で充実感を得ています。ある大会で、小学生クラブチームのコーチから思いっきり怒鳴られている小学生を見かけたことがあります。「なんでできないんだ!」というような感じでした。叱られていた小学生は泣きながらずっとうつむいていました。こうした指導をみていると本当に悲しくなります。この子は競技を嫌いになってしまうのではないかと。厳しい指導を否定しているわけではありません。うちのクラブでも叱らなければならないときは叱るようにしています。どこまでが厳しさでというと明確ではありませんが、叱り方にも工夫をすべきです。また、親ばかりが熱心で、子どもはやらされている感が強すぎるのも問題です。とにかく子どもの時は楽しんでほしいし、その競技を好きになってほしいのです。
 運動が楽しい、競技それ自体が楽しいという内発的な動機づけによってスポーツをすることは競技生活を長くする要因となります。ロチェスター大学の心理学者エドワード・L・デシ(Edward L. Deci)は、有能で自己決定でありたいというヒトの欲求によって動機づけられた行動を内発的に動機づけられた行動として、ヒトが内発的に動機づけられるためには、望ましい結果を得るための活動に対して有能感を感じる必要があると、つまり「自分はできる」という感覚がなければ、やる気は生じないと述べています。
 競技を好きにさせるためには運動有能感を感じさせることが重要です。自分でやって自分でできたという運動の上達を成功経験として与えてやることで自信とともに運動有能感は高まっていきます。運動有能感は、生涯スポーツを語る上でも大変重要なキーワードとなっています。
表は、奈良教育大学の岡澤祥訓氏ら(1996)の運動への自信を運動有能感3因子であらわしたものです。参考にしてください。

 最後は堅い話になってしまいました。ご批判もあるかと思いますが、私はこの2つが早熟の(と思われる)子を長く競技させるポイントではないかと思っています。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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