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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.42「横浜市長杯」

 

 「横浜市長杯」というとYCC横浜市長杯レース(横浜ヨット協会)も知られているが、僕がかねて関心を持っていたのは大学野球の通称「横浜市長杯」だ。正式には「横浜市長杯争奪・関東地区大学野球選手権大会」という。関東(山梨、新潟も含む)に割拠する大学野球リーグの強豪を一堂に集め、雌雄を決しようという大会だ。優勝校、準優勝校の2チームは直後行われる明治神宮大会にコマを進める。

 

 参加リーグの顔ぶれがいい。神奈川大学野球連盟、関甲新学生野球連盟、首都大学野球連盟、千葉県大学野球連盟、東京新大学野球連盟。普段、神宮球場で東都リーグばかり見ている自分にとって大変新鮮だ。これまでは明治神宮大会に出てくる東海大や創価大、上武大くらいしか縁がなかった。最近はプロ野球ドラフトで「非・六大学」「非・東都」の関東の選手がじゃんじゃん指名されるようになった。レベルがぐんぐん上がっている。

 

 僕に「非・六大学」「非・東都」の大学野球の存在を教えてくれたのは、間違いなく同世代のスター選手・原辰徳氏だった。東海大相模の好打者として甲子園を沸かせた原さんは、プロ野球でも六大学でもなく、首都大学リーグの東海大学に進学した。しかも、同時に東海大相模の監督だった父・原貢氏が東海大の監督に就任したのだ。これは「父子鷹」と新聞の見出しになり、首都大学リーグや東海大の認知度アップに大いに貢献した。

 

 僕は中大杉並→中大の持ち上がりだったから、東都リーグについては10代から身近だった。六大学と比べてちょっと通好みっぽい感じがパ・リーグみたいで気に入っていた。が、「東海大相模の原クン」は僕の想定する「大学野球のセでもパでもない」リーグで野球をやるのだった。へぇ、首都リーグっていうんだ。これは一躍、有名になって女性ファンが殺到するぞ。そんな感じだった。

 

 あれから原辰徳さんは巨人の4番打者や監督を務め、華々しい球歴を残した。一方、大学野球の勢力図も大いに変化した。「横浜市長杯」の会場はもちろん横浜スタジアムだ。全4日間の日程で、各連盟の上位2校、総計10校がしのぎを削る。今年は創価大の田中正義投手がメディアの注目を集めていた。僕も創価大の登場する大会2日目を取材するつもりでいたら、雨で日程が一日ずれ込んだ。

 

 そういうことはぜんぜん気にしないのが当コラムのいいところだ。おかげで「横浜市長杯」の素顔というのか、平場の1回戦から見ることができた。大会初日、第1試合は関東学院大(神奈川県大学野球連盟2位)対日本体育大(首都大学野球連盟2位)、流通経済大(東京新大学野球連盟2位)対白鴎大(関甲新学生野球連盟2位)。スコア的にも3ー0、2ー1と好試合が続く。秋の一日、最高に楽しかった。

 

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 個人的な収穫は白鴎大であった。残念ながら1回戦で敗退してしまったため、明治神宮大会まで待っていたら今年は見られなかった。マリンブルーのユニホーム姿がハマスタに映える。横浜大洋ホエールズみたいだ。まぁ、「白い鴎」だもん、似合うよなと思ってハッとする。白鴎大の所在地は栃木県小山市じゃないか。何故、海なし県の学校が「白い鴎」を名乗ったのだろう。

 

 検索してみたら驚くべきことが判明した。読者はリチャード・バックの『かもめのジョナサン』をご存知だろうか。1970年代の寓話的小説だ。世界累計で4000万部の大ベストセラーになった。その本邦初訳に挑まれたのが白鴎大の創立者、初代学長の上岡一嘉氏だった由。白鴎大は海なし県にありながら、『カモメのジョナサン』の自由な魂を建学の精神としているため、「白い鴎」である必然があったのだ。ちなみに同大の看板教授ともいえる政治学者の福岡政行さんは野球部々長を兼任されている。適時打を放った4番・大山悠輔選手が大いに気に入った。右打者のライト打ちだが、流すのではなく「右に叩く」イメージ。 きっちりイメージを持った打席を務めた。

 

 白鴎大出身のプロ野球選手というと飯原誉士(ヤクルト)のイメージだったが、岡島豪郎(楽天)、金伏ウーゴ(巨人)、高谷裕亮(ソフトバンク)、塚田正義(ソフトバンク)、ルシアノ・フェルナンド(楽天)と多士済々になってきた。今年のドラフトでは塚田貴之がオリックスの育成1位に、卒業生の仲尾次オスカルが広島6位に指名されている。一度、関甲新学生リーグも見に行きたいと思う。これはだけど、関東甲信越の広域リーグだから遠征が大変だろうなぁ。

 

 すっかり白鴎大のファンになって球場を後にした。電車のなかで大会パンフに読みふける。どうやら関甲新リーグの最強校は群馬の上武大らしい。これまで実に四回、「横浜市長杯」を制している。上武大の次に優勝が多いのは三回の創価大(東京新大学リーグ)だ。イメージ的には東海大(首都リーグ)が強そうだが、取材日の時点ではまだ一回、今大会(第11回)に優勝したのでやっと二回目だ。

 

 大会記録のページを見ると個人記録の投手部門は第1回大会の八木智哉(創価大)が独占している。最多奪三振(1試合)20、最多奪三振(大会全試合)30、連続奪三振8、完全試合1。八木は現在、中日ドラゴンズだが、プロ入りしたのは僕の長年応援している日本ハムだ。新人王に輝き、優勝に貢献してくれた。2006年、ルーキーイヤーにプロで12勝しているのだ。その前年、2005年に「横浜市長杯」で「1試合20奪三振の完全試合」を達成してても納得する。

 

 で、その「1試合20奪三振の完全試合」をやられた対戦相手というのが、何たることか白鴎大なのだった。それが第1回大会の出来事だから、つまり白鴎大にとって「横浜市長杯」は屈辱からのスタートだったようだ。何かますます放っておけない感じになってしまった。とにかくがんばれ白鴎大! 今大会も1回戦負けだが、いつか優勝を飾って横浜の市長さんをアッと言わせてほしい。いや、市長さんは公平だからそういうことはおっしゃらないか。

 

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えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

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