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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.64「愚直にコツコツ」

 

 京急線の金沢文庫駅で下車した。駅前からバスで終点の関東学院大キャンパスへ。もちろん初めてお邪魔する。門を入ると左手に校舎、右手には広大なグラウンドが見えてきた。関東学院大学ラグビー部の練習拠点だ。僕は板井良太監督にインタビューを申し込んだのだ。テレビ中継や秩父宮のバックスタンドで応援してきた一ファンでしかないけど、胸熱だ。ラグビーの現場にやって来た。

 

 読者は関東学院大学ラグビーの栄光を覚えているだろうか。1997年から2006年まで10年連続で大学選手権決勝の舞台に立った強豪ラグビー部の雄姿を。あの頃、当『横浜スポーツウォッチング』のコラム連載があったら冬は毎年、大学選手権を取り上げていたんじゃないかと思う。横浜の学校が日本一になるのだ。当時を知らない若い読者は今の帝京大を思い浮かべていただきたい。関東学院はちょうどあんな感じだった。大学選手権の決勝というのは、要するに「関東学院vs早稲田」(2001年からは6年連続同カード!)だった。特に語り草になってるのは関東学院・春口廣監督、早稲田大・清宮克幸監督の「名将対決」だ。

 

 が、栄光の歴史は思わぬ形で暗転する。2007年、大麻による不祥事で、対外試合の自粛、春口監督の引責辞任、吸引した部員12名の無期停学等の処分が発表される。ラグビーファンは腰を抜かした。あり得ないスキャンダルだ。大学スポーツのトップランナーがいきなり姿を消したのだ。まぁ、強豪ゆえの驕(おご)りがあったと言われてしかたない。自粛が解け、リーグ戦に復帰してからも成績は下降線をたどった。2012年、稲垣啓太主将(パナソニック、日本代表)の代に入替戦で立正大に敗れ、2部降格。それから3シーズンをリーグ戦グループの2部で過ごす。

 

 板井良太監督は2015年、その関東学院を1部に再昇格させたのだ。入替戦で、専修大に22対7で勝利し、男泣きするさまはメディアから好意的に報じられた。何といっても皆、関東学院ラグビーの復活を待っていたのだ。僕の親しい出版社の知人は(母校でもないくせに)関東学院好きを自認している。そういう隠れファンがマスコミに大勢いるのだと思う。

 

 飲み屋のラグビー談義でよく話が出るのは「ストーリーが急に途切れた」感覚だ。「関東学院ラグビー」という物語は、例えばテレビドラマを録画予約しといたら地震速報が入るなどして途中でぷっつり終わってた感じなのだ。クライマックスでいきなり地震情報に切り替わっていた。まぁ、それ自体は公共性を鑑(かんが)みて納得ではあるけれど、話の続きが気になる。あの続きはどうなったのか? そんなイメージ。

 

 ストーリーの続きは板井監督と現役の学生たちが紡いでくれたのだった。2016年シーズンは久々の1部で6位(入替戦に勝ち、1部残留)。で、今年もいよいよラグビーの季節だ。秋が深まると再昇格2年目のリーグ戦が始まる。取材のタイミングは秋季練習試合でチームの仕上げに入った頃合いだ。

 

 板井監督はプロップ出身の関東学院OB、卒業後は伊勢丹で4年間プレーし、引退してから母校のコーチを務めた。春口廣監督時代のFWコーチだ。その後は関東六浦高のラグビー部を同好会から立ち上げ、県下の強豪に育てた。インタビュールームに入って来られた板井さんの第一印象は「エネルギーの塊(かたまり)」だ。僕は板井さんが母校ラグビー部の再建を担うことになったのは宿命なんだなと一瞬で理解した。

 

 「今の学生たちは関東学院の強かった時代を知らないんですよ。最後の選手権決勝が2006年ですから、去年の再昇格がちょうど10年です。一からやり直しでした。挨拶の徹底とか、ペットボトルの散乱してた部屋をかたづけさせることから始めました。関東学院のラグビーは愚直にコツコツですからね、最初に選手権に出た仙波優とか箕内拓郎(共に元日本代表)は、高校ではジャパンに選ばれてないんです。関東学院でコツコツやることで開花したんです」

 

 入替戦で再昇格を成し遂げたのはどんな経験だったのだろう。数々のメディアが感動的に取り上げてくれた「関東学院復活!」のシーンは。

 

 「正直に言っていいですか。感動しながらどこかで醒めてました。これは明日から大変だぞって。ご存知の通り、今の大学ラグビーのレベルって10年前とはぜんぜん違うじゃないですか。フィジカルのつくり方も戦術もとんでもなく高度になっている。1部でどうやったら生き残れるか考えましたね。とにかくしがみついてでも残ろうと、それだけ考えてました」

 

 板井監督は素晴らしいモチベーターだ。再び母校を大学選手権へひっぱり上げる道のりの険しさを知っている。だから今季もとにかく1部残留が目標だ。

 

 「まだ関東学院が強かった頃のことを覚えてる人がいます。ヘッドコーチに榎本淳平(元サンヨー、元日本代表)が付いてくれる。練習に山村亮(ヤマハ、元日本代表)が来てくれます。練習試合も組みやすいんですよ。こないだも慶応とやって14対72でコテンパンにやられましたけどね。何事も経験することが大事だと思ってます」

 

 学生を元気づけようとユーモアをまじえ、色んな声がけをされている。僕は「1部残留が目標」の奮闘もビッグチャレンジだと思った。がんばれ関東学院! 愚直にコツコツ、前進していこう。いつかでっかい夢までたどり着こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

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