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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.29「都会の地方巡業」

10月10日、1964年の東京五輪開催からちょうど50周年の日、僕は横浜文化体育館へ出かけた。東京・浜松町の文化放送でラジオ出演して、その足で向かったから「文化→文化」である。出演した朝ワイドでもオープニングトークで東京五輪の話題になった。主に「三宅兄弟やジャボチンスキーが活躍した重量挙げ会場は実は渋谷公会堂だった」といった「五輪レガシー」ネタだ。という意味では横浜文化体育館も「東洋の魔女」が活躍したバレーボール会場だ。50周年記念日に訪れるにふさわしい立派な「五輪レガシー」なのだ。

ただし、訪れたわけは東京五輪とは少々異なるのだった。「第7回大相撲横浜場所」。秋巡業のスタートを切る「都会の地方巡業」だ。9月の秋場所は久々に大入りが続く盛況だった。ただでさえ3横綱が顔を揃え、大関・豪栄道が注目を集め、遠藤、大砂嵐と人気者が出たタイミングだった。そこへ新入幕の逸ノ城が旋風を巻き起こしたのだ。僕は秋場所4日目、日馬富士が嘉風のマゲをつかみ反則負けを喫したのをマス席で見ている。日馬富士は右目負傷で翌5日目から休場し、「3横綱揃い踏み」の看板を下ろす事態となったが、逸ノ城のブレークがそれを補って余りあった。

横浜巡業はその秋場所の人気がそのまま移行した観があった。13時の開場前から大変な行列ができている。客層が幅広い。まさに老若男女。土地柄か外国人客も列に混じっている。まぁ、今は「クールジャパン」といって外国人に日本文化ブームが起きている。国技館も外国人客がホントに増えたなぁ。これは素晴らしいことだと思う。
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聞けばチケットはソールドアウトだそうだ。そりゃ行列も長く伸びるわけだ。しかし、いくら何でも早過ぎないか? だって今年の横浜巡業はナイター開催だぞ。まぁ、国技館の本場所にも熱心なファンがいて、前相撲からずっと見たり、あるいは道端で入り待ちしていたり、大変なもんだなぁと思うけれど、何かちょっとそれとは違う感じだ。

そうしたら開場したらすべての謎が解けた。僕は地方巡業のことが何もわかってなかったのだ。いや、台東区に住んで、以前は高砂部屋、現在は千賀ノ浦部屋と同じ町会に属するという恵まれた環境にいる(だからかつては「塩撒きの水戸泉」や「モミアゲの闘牙」ともんじゃ屋で会話を交わし、今は「心臓どきどきの舛ノ山」に声をかけている)と、相撲のことを多少知ってるような気になってしまう。実際は何もわかってないのだ。地方巡業は早くから行かないと意味がなかった。

それは何でかっていうと力士とのふれあいだ。開場していきなり、佐田の海&佐田の富士、境川部屋の関取2人の握手会がセットされている。だから13時開場を待ち受けてたお客さんは場内に入ってすぐ、今度は握手会の行列に並んでいる。またこの握手会が記念写真撮影込みの大サービスだったりする。
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で、大サービスは握手会のような公式のものだけじゃないんだなぁ。(靴をビニール袋に入れて)体育館の床面にしつらえられたマス席、タマリ席に入っていくと、通路にお相撲さんがフツーに立っている、これはすごい状況だぞと思う。ファンが声をかけて写真を撮ったりしている。見ると僕のすぐ近くに片男波部屋の玉鷲がいる。すっげー。さっそく記念写真をお願いした。玉鷲関はモンゴル・ウランバートルの出身だが、四股名は「玉鷲一朗」。僕と同じ名前なのだ。
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ていうかね、これは相撲好きにはパラダイスではないか。あっちでは碧山、こっちでは大砂嵐、こんなに気軽に寄っていっていいのか? 「導線」という考え方が地方巡業にはどうも見当たらない。まぁ、逆にいうと「導線」がないからこそマナーが問われる。ファンもメディア関係者もお相撲さんと垣根なしにふれあえる場を良識をもって守らねばならない。
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土俵上では申し合い、ぶつかり稽古が始まった。これも貴重だ。客前で稽古を見せるなんて巡業しかあり得ない。まぁ、ナイター開催の取組も「白鵬×鶴竜」なんて大一番が惜しげもなく組まれていてすごいけど、バリューがあるのは早い時間の稽古のほうだろう。だって普段は絶対見れませんよ。一門とか部屋にこだわらず、公開合同稽古が行われてるんですよ。

ここでも逸ノ城が注目を集めた。横綱・鶴竜が胸を出しぶつかり稽古が始まったと思ったら、それが延々10分以上続く。「かわいがり」だ。何度も土俵に転がされて逸ノ城の身体が砂だらけになる。ファンは秋場所、鶴竜が立ち会いに変化されて逸ノ城に敗れたのを知っている。その腹いせなんじゃないかとニヤニヤしている。もっとも鶴竜もそのストーリーを踏まえて、出しものとして「かわいがり」を見せている。

おお、見てるともうひとりの横綱・白鵬までが土俵に上がって、鶴竜の「かわいがり」を見守っているぞ。これは「横綱2人が将来の好敵手をしごいてる」図じゃないか。まさに連続ドラマ・大相撲の真骨頂だ。「もう、やめてあげて!」「許してやって〜!」と女性ファンの声が飛ぶ。この「かわいがり」の様子は翌日のスポーツ紙でさっそく記事になっていた。

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残念なことに逸ノ城はその後、帯状疱疹を発症して、地方巡業を休んでいる。一説には人に見られることのストレスが原因ともいわれる。だから「話題の逸ノ城」が見られたという意味でも「大相撲横浜場所」は実に貴重だったのだ。

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

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