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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.21「大著成る」

今月は書評ということにさせてください。大著『日本プロ野球ユニフォーム大図鑑』(全3巻+特別付録)がついに完成し、これがまた素晴しい出来映えなんですよ。ぜひ、球春を迎えるに当たってお手にとっていただきたい。前作『プロ野球ユニフォーム物語』が出たときも文化系野球ファンの間で話題騒然だったんですよ。「あの本を一冊つくる労力を思ったら気が遠くなる」(編集者の知人、阪神ファン)みたいな話になっていた。そうしたらあれから8年、もっとすごいのが出てしまった。

これね、「奇跡の上梓(じょうし)」くらい言ってもいいと思うんですよ。本当は去年の9月中旬に発売が予定されていた。まぁ、でもそれが何ヶ月ずれ込んでもファンは文句言う気にはなりませんよ。だって序でユニフォームから振り返るアメリカ野球史に触れたと思ったら、もうその後は具体的かつ詳細な日本野球史です。現在のプロ野球12球団の前史をユニフォームを図示しながら語り起こしたのは、いわば想定内ですよね。「埼玉西武ライオンズ」のはるかな前身「西日本パイレーツ」のユニフォームがカラーで載ってる図鑑なんて他にないんだけど、そこで驚いてちゃ話が先へ進まない。

いいですか、すごいなぁと思うのは下巻の最後の「幻のリーグ」って章があって、「国民野球連盟」「グローバルリーグ」「マスターズリーグ」と短期間で姿を消した、うたかたの夢みたいなリーグのユニフォームが(もちろん全チーム、カラーで!)載ってることなんですよ。「国民野球連盟」なんて戦後すぐの1947年、たった1年しか存在しなかったリーグですよ。写真資料もろくに残ってないのにどうやってユニフォームを採録したかというと、まず徹底的に当時の紙媒体(新聞、雑誌)をチェックし、まぁ写真がモノクロなんでカラーリングについては関係者の証言をもらうんだね。「大塚アスレチックス」のユニフォームに金モールが入っていた(!)なんて、この図鑑がなかったら永遠に知りようがない。

だけど、今回の「大図鑑」が圧倒的なのは単に歴史軸じゃないんだよ。例えばオールスターゲームのプラクティスジャージや東西対抗のユニフォーム、あるいは福岡ソフトバンクホークスの「鷹の祭典」で着用されるようなイベントユニフォーム、日本代表ユニフォーム、独立リーグや女子野球と網羅的な仕事をしているところなんだ。その意欲。その意思。これは只事じゃないと思うんですよね。

実は「前作から8年」の8年という歳月、日本プロ野球はユニフォームブームだったと言っていい。これは完全に『プロ野球ユニフォーム物語』が起こしたムーブメントだと思う。例えばこの時期に復刻ユニフォームや限定ユニフォームが流行した。プロ野球がユニフォームに自覚的になった。で、そのせいもあってユニフォームのバリエーションがめっちゃ増えるんだ。「大図鑑」はそれをきちんと網羅することで自ら責任を取っている。

著者の綱島理友さんについては当コラムのvol.11「野球の多様性」(2013年4月25日)で取り上げている。取材時、いつ終わるともわからない「大図鑑」の作業にちょうどかかりきりになっていて、「行けども行けども海…」「それは『太平洋ひとりぼっち』堀江青年ですか!」みたいなやりとりをした。

そのときは綱島さんの自分史を中心に話をうかがったので、「大図鑑」そのものについては斬り込んでいない。が、下巻のあとがきに出てくる日米のユニフォームスタイルのギャップに関する話は聞かせてもらったのを覚えている。綱島さんや僕は海外のカルチャーを「モノ」や「コト」を介して受容した戦後世代で、その「モノ」や「コト」のなかに思想のようなものを見て取ったのだ。思想といっても先行する団塊の世代とは違って左翼思想の影響下にない。こう何というのかな、もっと物質的で、高度資本主義っぽい感覚なのだ。あ、綱島理友が一時、籍をおいたマガジンハウス、『POPAYE』誌のカルチャーを連想してもらうのが早いかもしれない。

で、僕らは「モノ」や「コト」にはそれをデザインしたり、オーガナイズする思想があるというのを学んできた。アメリカのユニフォームがネオクラシック路線へシフトした意味、日本のそれが業界的要請のなかで迷走している意味を考えてしまうのだ。綱島さんという人は「大図鑑」を編んだ著者ではあるんだけど、例えば「常に新種の蝶を探しにジャングルへ分け入る昆虫学者」みたいなタイプではない。網羅的に取り扱ったイベントユニフォームの類いも、新種が採集できて嬉しいってことでもなかったはずだ。

むしろ業界的な要請に流され、日本野球が無思想、無節操に陥ってるのを嘆くスタンスだ。図鑑編著者として矛盾があるかもしれないが、ユニフォームはできるだけ変えないほうが好ましいと考えるタイプだ。

だから重層的な構造になっている。珍品、新史実を踏まえてバリエーション、深みを増した一方で、「大図鑑」はこの時代の日本野球の定見のなさを、「モノ」や「コト」を通して後世に伝える役を果たしている。僕はそこが面白いな。

今、このタイミングで「大図鑑」を紹介するのは、もちろん理由のあることだ。僕はひとりでも多くのスポーツファンに本書を手にとっていただいて、野球史の豊かさに触れてもらう一方で、現在のシーンが抱える問題を共有してほしいのだ。図鑑だからね、ダメなものはひと目でダメってわかるよ。

全3巻セット(セットケース入り、セット購入特典の付録あり)で税込み8820円はけっこう値が張るじゃないですか。つまり、僕が言いたいのは、こういう本こそ消費税が上がる前、駆け込みで買ったほうがいいってことなんだなぁ。いや、「駆け込み需要」みたいな話になるでしょ。そのときに、じゃ、自分は何を駆け込んで買ったかというときに『日本プロ野球ユニフォーム大図鑑』って言いたくないですか? けっこう自慢できる「駆け込み」だと思うんですけど。

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

※タイトル・本文に記載の人名・団体名は、掲載当時のものであり、閲覧時と異なる場合があります。

 
 
                           
 
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