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あんどうたかおのバスケにどっぷり

vol.65「指導者について」

 このところ体罰問題が大きく取り上げられています。問題の発端は大阪市立桜宮高バスケットボール部キャプテンが自殺したことです。
 ここで大きく取り上げられたのが指導者(コーチ、学校の先生)の体罰問題ですが、最近は暴力事件(問題)と言い直されています。体罰の域を超えていますからね。

 私は中学時代から部活に入ってバスケットをしてきましたが、弱いチームだったこともあり、体罰とは無縁でした。
 現在鎌倉市ミニバスケットのコーチもしていますが、かつては2種類の社会人チームのコーチをしたことがあります。一つはほぼ初心者相手で、もう一つは実業団リーグに所属するちょっと強いチームです。相手が大人なのでここも体罰とは無縁でしたが、時にはイラっとすることが何度もありましたよ(笑)。
 でも殴ろうなんて思ったことはありません。「手を出したら俺の敗け!」と思っていましたから。何故なら選手がコーチの考え通り動けなかったら、それは「コーチの教え方が悪いため。」です。殴るのだったら、それは自分の頭であって選手の身体ではありません。

 大学時代からバスケットボールの専門誌の編集のアルバイトをしていたためか、日本の新しい技術を常に見ていましたし、アメリカの教え方も耳にしていましたので、体罰なんて考えもしませんでした。勿論アメリカへ行くようになり、UCLAを初めケンタッキー大、UNC(ノースカロライナ大)等強豪大学のみならず、NCAAにも加盟してないような小さな大学や高校の練習を見て多くのことを学びましたが、偏った上下関係や体罰は見たことがありません。どちらかと言うと強く伝統あるチームこそコーチは熱心に教えているし、選手の自主性を重んじている感じがしました。
 彼らは如何に効率良く練習して選手に教えるかを知っています。
 伝説的コーチUNCディーン・スミスはあのマイケル・ジョーダンのコーチとして有名ですが、彼の練習は一つのドリルが8分程度と短くしています。
 理由を聞くと、「人間の集中力は8分が限度だから、同じドリルをそれ以上続けても効果は上がらない」と教えてくれました。そのかわりコーチは3人いてコートも3面あり、15人のメンバーを3チームに分け、別々のメニューをこなしていました。見ていて凄かったのは、マネージャーが時間を計り8分立つと笛を鳴らし、それの合図で選手は次のコートへ移動して、次のコーチから教えてもらいます。移動も駆け足で、キビキビしていましたね。


UNCスミスセンター


ケンタッキー大練習

 日本の体罰問題に話を戻します。
 体罰をする多くの指導者は、熱心で情熱的で、チームを強くしたことがあり、普段は優しい人なのです。そのため選手や父母から信頼を受けている人がほとんどで、選手も自分のミスは自分で判っているため、殴られても納得しています。だから指導者は殴る。まあそれが体罰の悪い連鎖となっているのでしょう。

 バスケットは「習慣のスポーツ」と言われます。
 例えば「シュートしたらリバウンドに入る」これはバスケットでは当たり前のことですが、いちいち考えて行動するのではなく、自然に身体が動くようにしなくてはいけません。いわゆる「身体に覚え込ませる」と言うことです。そのためには単調な練習を繰り返し行わなければなりません。つまらないので選手は手を抜きがちですが、徹底させる手っ取り早いのが殴ってやらせる方法です。

 残念ながら日本の強豪高には殴る指導者がまだ残っています。春休みや夏休みを利用して強豪高には地元のみならず、全国から多くの高校が集まり練習ゲーム会が行われます。そこで強豪高の指導者が殴っているのを見れば、弱いチームの指導者は「殴ると強くなる」と思ってしまいます。そこまで行かずとも、殴ることの罪悪感は薄らぎますね。
 そのためにも、強豪高から「体罰撲滅運動」を進めて欲しいものです。

 殴る指導者の多くはそれまでの経験から積み上げた「独自の技術論」を持っていますが、教育論(指導法)や心理学に長けた人は少ないように思えます。良い理論でも教え方が上手くないのでしょう。俺が教えた(注意した)ことを選手がやらなかったり上手く出来ない、「だから殴る」のでは無いでしょうか?
 でも違うと思います。下手だから、上手く出来ないから練習するわけでしょ!
 選手が出来るように、「殴らないで教える」のが指導者の役割です。

 その為に「教え方」の勉強がもっと必要だと思います。元プロ野球選手の桑田真澄さんがスポニチで「殴ると選手は委縮して次はミスしないようにとスケールが小さくなる」と言うようなことを書いていました。
 その上指導者の顔色ばかり窺うようになります。
 怖いのは、選手が自分で判断(考える)しなくなることです。ミスしたことの結果論で指導者が怒り、それに対して選手は意見を言えないので、指導者の言うとおりにプレーするだけ、になってしまう。
 しかし「事件はコート上」で起きます。練習で習ったこと以外のプレーが起きた時(バスケットでは良くあることです)、そこに指導者は入れません。つまり選手が考え判断することを求められるのです。だから普段の練習から自分で判断することを訓練しなければならないし、その多くは失敗することで判るのです。人に教えてもらうことも大事ですが、自分で気が付かなければ上達しません。
 指導者は「気付き」を手伝う、又は助言を与えるのが仕事であって、殴ることではありません。何回も繰り返しプレーさせることです。

 その点、若い指導者の多くはアメリカの技術論や指導法を勉強していて殴らないですね。アメリカ人は教え方が上手いですから、アメリカでバスケットを勉強して来た指導者は殴りません。
 ハッキリ言えば殴るのは時代遅れです。
 「選手のミスは指導者のミス」と言うことを深く心に刻んで欲しいものです。
 「殴りたかったら自分の頭を殴れ」と言いたいです。


ビーコルヘッドコーチのレジーゲーリー

 それではビーコルの指導者はどうか??
 コーチ・ゲーリーは当然そんなことはしません、選手からは「直ぐカッとなる(笑)」とか言われ、短気なようですが、当然殴るようなことはしません。何しろアメリカ育ちですから。その上パワーハウスと言われる名門アリゾナ大出身です。
 アメリカの名門大学は「オールドスクール」と呼ばれる昔ながらの伝統があります。封建的とは違いますが、古めかしい文化やプレー・スタイルです。
 具体的に言うと、一流選手を集めても、個人能力中心の1on1のプレーは少なく、コーチを信頼し、フォーメーションが多いチーム・プレーと基本プレーとディフェンスを重視することで、「チームとして相手と対戦する。」と言うことです。
 コーチ・ゲーリー自身が言いました「僕はオールドスクールだよ。」と。
 正にビーコルのチームそのものです。練習も「シーズン中にプロがやること?」と思うくらい基本プレーを取り入れています。例えばボールを受けてのシューテイング・ドリルでは、同じパターンでは無く、その場ジャンパー(ジャンプシュート)の後はワン・ドリブルでジャンパー、その次はドライヴしてレイアップ、次はドライヴからギャロップステップ、右サイドをやったら次は左サイド、と言うように多くのパターンをゆっくりとプレーして身体に覚え込ませています。


練習中のゲーリーコーチ

 そのビーコルは14日現在22勝8敗、勝率0.733で首位新潟と1ゲーム差の2位で、群馬クレインサンダーズ第2戦以来の5連勝と好調ですが、1月16日秋田戦から飛び飛びのスケジュールになっていてゲーム感が無くなりそうで心配です。
 今週末は2週間ぶりのゲームで信州ブレイブウォリアーズと松本市での2連戦ですが、問題はその後です。
 23、24日はイースタン・カンファレンスでビーコルと1ゲーム差22勝10敗の岩手ビッグブルズ戦です。11月の対戦では1勝1敗で分けている強豪チームで、今回はアウェーと言う不利な条件となっています。
 そして翌週が24勝6敗、勝率0.800ウエスタン・カンファレンス首位の琉球ゴールデンキングスとの対戦が沖縄で行われます。
 ここが中盤での山場です。ここを最低でも5分の星で切り抜ければ、終盤に向けて弾みがつくでしょう。

 次回ホーム・ゲームは3月9、10日の国際プールでのvs大分(11勝21敗)戦となります。

あんどうたかお プロフィール

1946年生まれ。

月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。

現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。

NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。

過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。

横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。

現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。

また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。

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